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決闘

「我、ヴィオラは我が父の名誉のため、戦う」


 ヴィオラは競技場に入っていくと、普通の決闘なら剣を突き上げる、その代わりに右手のガラスペンを突き上げ、決められた科白を述べた。その声は魔道具で拡声されている。

 ブーブー。観客から野次が飛んでくる。

 学校の競技場の観客席は生徒たちで満員だ。なぜか、ミューラー先生が張り切って宣伝したため、全校生徒が集まっているんじゃないだろうか。

 ヴィオラは競技場の真ん中に置かれた机のところまで進んだ。

 空を見上げると、魔法で自分の姿が大きく映し出されている。その横にイアンの姿が現れた。

 ものすごい拍手と歓声に自分の味方は誰もいないということを突きつけられてヴィオラは嫌になる。


「我、イアンは全力を尽くして戦うことを誓う」


 イアンも剣の代わりにペンを突き上げる。普通なら様にならないポーズもかっこいい。

 ヴィオラの前まで来ると、イアンは握手の手を差し出した。ヴィオラは慌てて、ペンを左手に持ち替え、握手した。

 正々堂々、そして、颯爽としている。どう見ても、イアンがヒーローでヴィオラが悪役だ。


「今回の決闘はヴィオラ嬢が自分の算術能力を示したいということで、百ます計算で行います」


 ミューラー先生の声が響く。空中に百ます計算の表が現れた。


「この素晴らしい計算練習方法は今後、授業にも取り入れていきますので、方法をよく覚えてください。まず、……」


 先生は熱心に百ます計算の説明を始めた。

 うーん、どう見ても決闘よりも百ます計算に夢中になっている。観客が引いているようだ。

 しばらく、百ます計算の説明に熱中した後で、やっと、ミューラー先生は決闘の説明に戻った。


「今回は足し算、引き算、かけ算、割り算の四枚の問題を行います。終了した者は手を挙げてください。全て解くのにかかった時間足す間違えた問題の数かける30を失点とし、失点が少ない者を勝者とします。卓上の紙は計算に使用してかまいません。何か疑問点は?」


 ヴィオラとイアンは首を振った。


「それでは席について。問題用紙を配るので、開始の合図で解答を始めるように」


 二人が向かい合わせに座ると、間に黒いしきいが現れた。カンニング防止らしい。

 配られた問題用紙は真っ白だった。ハーモニー学園に入って初めて知ったが、試験用紙には魔法がかけられているのが普通で、開始時間になるまで文字が現れない。


「準備はよろしいですね。では、開始!」


 わっと歓声が上がるが、気を取られている場合じゃない。

 現れた数字を見ると、三桁もある。

 ヴィオラは必死に計算を始めた。この世界のペンは基本がつけペンで書きづらい。少しでも書きやすいようにと使い慣れたガラスペンを持ってきたが、前世の知識でボールペンを作っておくべきだったかもしれない。

 イアンが書く音が気になる。思ったより速い。

 足し算が終わり、次の紙をめくった音は二人ともほぼ、同じだった。

 次は引き算。これもほぼ同じ速度。いつのまにか、観客が静かになっている。余計にペンを走らせる音が大きく聞こえた。

 かけ算。桁数が多いから、なかなか大変だ。筆算していると、ペンのインクがすぐに無くなって、何度もインク壺につけなくてはならない。時間のロスが気になる。

 紙をめくると、イアンがめくる音がしなかった。少し遅れて、音が聞こえ、ヴィオラはホッとする。このリードを守って勝つ!

 割り算は割り切れる計算ばかりだし、桁数が減るので、かけ算より簡単な気がする。

 最後の答えを書くと、ヴィオラはペンを置き、勢いよく手を挙げた。


「終了しました!」


 空を見ると、百ます計算の紙が二枚表示されていて、ヴィオラとイアンの記入した数字が確認できる。イアンはあと七ますだ。きわどかった。


「終了しました」


 静かなイアンの声にまた、歓声が上がった。遅くても、みんな、イアンの勝利を確信していた。

 机の上のしきいが消えた。

 現れたイアンの顔色が悪いような気がする。


「それでは採点を始めます」


 ミューラー先生が言うと、映像が足し算の百ます計算に切り替わる。パパパパッと丸がついていく。


「両者全問正解」


 歓声が湧き上がる。

 引き算。


「両者全問正解」


 かけ算。

 パパパパッと丸がついていく中、イアンの方に一つバツが現れた。


「ヴィオラ、全問正解。イアン、一問不正解」


 悲鳴のような声が観客席から上がる。


 割り算。

 イアンの解答の最後の方に三つバツがついた。


「ヴィオラ、全問正解。イアン、三問不正解。失点を計算するまでもないですね。この決闘、勝者はヴィオラ!」


 ミューラー先生が言い切ると、観客はどよめいた。

 イアンはがっくりと肩を落とした。


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