音楽祭
音楽祭はジョセフィンのバイオリンから始まった。ヴィオラの耳では元の作曲者の演奏と変わりないように聞こえる。
この世界では珍しい疾走感のある曲に観客はあっけにとられたようだったが、演奏が終わると、すごい歓声があがった。
それから、同級生たちが一人ずつ、この世界の曲を演奏していく。みんな、練習も積んできたのだろう。授業の時よりずっと上手だ。
そして、ジョージ王太子の番が来た。
ゲストのジョージは制服ではなく、私服だ。白を基調に金があしらわれ、まぶしいくらいだ。キラキラとした王子様に女の子たちがきゃあきゃあ言っている。
「本当はあんな派手な格好は好きじゃないから、制服にしたかったらしいんですけど。学園長の要望ですって」
ジョセフィンが教えてくれる。
何度も何度もヴィオラが歌って、ジョージが選んだのは前世で大ヒットしていたグループのアニメ主題歌だ。ヴィオラのあやふやな歌をジョージは見事に譜面に起こした。音程が狂ったところはアンが直してくれた。才能がある人はおかしなところにすぐに気づくらしい。直された楽譜で演奏を聴くと、その方が正しいのは明らかだった。転調という手法が多く使われているらしい。
「私にこの素晴らしい曲を教えてくれたヴィオラ嬢にこの演奏を捧げます」
ジョージの挨拶に黄色い悲鳴が上がった。
な、なんてことを。
「ヴィオラ、顔が赤くなってますわ」
慌てるヴィオラにジョセフィンが目ざとく指摘してくる。
「それより、ほら、始まる」
ヴィオラはごまかした。
ジョージの指が軽やかに動き始める。本当に何でもできる人とは思っていたけれど、ヴィオラにはジョージがアンやケイトと同じ音楽に情熱を持っている人のように感じられた。
観客も喜んでいるのがわかる。弾き終わるとまた、歓声が起こった。拍手の中、ジョージが舞台を降りると、また、同級生の演奏だ。
終わりが近づくにつれ、ヴィオラは緊張してきた。クラスのみんなには頼んだけど、観客を巻き込むことができるだろうか。
不安になっているうちに最後、自分の出番が来た。
「大丈夫、上手くいくから。アンもケイトも頑張ってね」
ジョセフィンに励まされ、アンとケイトを従えて舞台の真ん中に立つと、ヴィオラはお辞儀をした。
決闘の時ほど、大勢の人がいるわけじゃないのに緊張してしまう。
「最後の曲を紹介させていただきます。ヴィオラと申します。この曲は私が作ったものではございません。子供の頃に旅芸人から教わった曲でございます。歌詞はこちらのケイトが作成してくださいました。手拍子や足踏みが入る珍しいものですが、ぜひ、みなさんもご一緒に参加してくださいませ」
一気に紹介すると、アンとケイトに目で合図する。
ドンドンチャ。ドンドンチャ。
足踏み二回、手拍子一回。
アンとケイトとぴったり合って、ホッとする。演奏はトムとピーターだ。他のクラスのみんなは観客席の中に混じって、足踏みと手拍子の見本になっている。
少しずつ、観客の中にも参加する人が増えてきた。心が高鳴るこの感じには誰も抗えない。
観客席が揺れるような感じになると、ケイトが歌い始めた。
「美しきカレイドよ。我らが祖国。故郷よ」
アンがつけた歌詞はまるで、国歌のようだった。確かに盛り上がる。
緊張が解けてきて、ヴィオラも聞こえない程度の小声で歌った。演奏しなくていいなら、音楽も楽しい。
同じ歌詞が繰り返されているので、観客から歌う人も出てきた。
ドンドンチャ。ドンドンチャ。
楽しんでいるうちに曲は終わった。
歓声と拍手の中、ヴィオラはお辞儀する。
これで終わった。と、ヴィオラたちが舞台裏に下がろうとした時、来賓席から中年の男性がものすごい勢いでやってきた。
「素晴らしい!」
その後から、学園長が慌てて、ついてくる。
「カレーラス様、お待ちください」
学園長が呼び止めても、効果はないようだ。来賓ということで他の人が止めるのも難しいらしい。
カレーラスと呼ばれた人は身軽に舞台に上がってきた。
「ヴィオラ嬢、初めまして。私はアウガルデン王国で楽士長を務めるカレーラスというものだ。今日の音楽祭、あなたが披露した曲は素晴らしかった。ぜひ、我が国でも披露してもらいたい」
すごい勢いだ。
「あの、旅芸人から聞いた曲を紹介しただけなので」
弁明するヴィオラにカレーラスはささやいた。
「嘘はいけませんな。このカレーラス、旅芸人の歌もきちんと収集、研究しております。今日の三曲、該当するようなものはありません。ヴィオラ嬢が作曲したことをなぜ、隠したいか、分かりませんが、新しい曲を作って頂けたら、秘密を守って差し上げますが」
だから、私が作曲したのではない!
と、どうしたら、納得してもらえるのだろう。
ヴィオラは助けを求めて、ジョージを探した。




