好きな曲
「無理。絶対に無理」
ヴィオラは叫んだ。
「確かに。マナーの時のようにやればできるかと思っていたんだけど」
ジョセフィンがため息をついた。まずは楽器との相性をみようということで、学園の楽器を借りて、試してみた。
ピアノ、ヴァイオリン、フルート。
どれも壊してしまった。安い練習用ので試してよかった。と言っていいのだろうか。
「弁償します」
水晶玉以来だ。
「私の教え方が悪かったせいだから、私が弁償するわ」
「そんな。ジョセフィンは普通に教えてくれただけなのに」
「いいから、いいから。それより、なぜ、身体強化しちゃうのかしら。いつも、物を壊して回っているわけじゃないのに」
ヴィオラは深呼吸した。自分でも肩に力が入っているのがわかる。
「苦手だという意識が強いせいか、力がこもっちゃって」
たぶん、前世から苦手だったんだと思う。でも、リズム感はあった。リズムゲームは色々やりこんで、その中でも太鼓には自信があった。
それなのに、なぜ、音楽祭のソロ用楽器に打楽器がないのか。
乙女ゲームだからって、夜想曲やら小夜曲のイメージにこだわらなくてもいいと思うんだけど。
ヴィオラはため息をついた。
「楽しむ練習がまず、必要なのかしら。ねえ、好きな歌はある? 一緒に歌ってみない?」
「え」
「私がピアノを弾こう」
部屋の隅で静かに書類を見ていたジョージ王太子が立ち上がった。本格的なピアノの前に座る。
ジョセフィンはグラント領に行くためにジョージを使ってから、自由に行動をしたい時にはジョージを伴っている。『ヴィオラと一緒に過ごす時間をプレゼントしてあげるんだから、感謝しなさい』と言われると、ジョージは反論できない。
「何がいい?」
聞かれて、ヴィオラは困った。実は古典的な曲も流行りの曲も知らない。前世の曲なら、色々思い出せるが。
「『カレイドの花』はどう?」
ジョセフィンが言った。確かにお祭りの定番曲でヴィオラでも知っていた。
ジョージが弾き始める。
ジョセフィンは朗々と、ヴィオラは小声で歌った。
「ヴィオラらしくないね。音は合っているのにそんなに自信がないんだ。」
ジョージは手を止めると、考え込んだ。
「楽器演奏をしなくてもいいように私から働きかけようか」
「いえ、そんなことではまた、何か言われます」
ヒロインになった以上、正々堂々と勝負しなければ。
と言っても、このままでは無理な気がする。
「ねえ、本当に好きな曲は何か思いつかない? やっぱり、歌いたいとか、弾きたいとか、そういう気持ちがないとあなたは頑張れないと思うの」
ジョセフィンに言われ、ヴィオラは考えた。
前世の曲なら好きな曲がある。
ドンドンチャ。ドンドンチャ。
足踏み二回、手拍子一回。
いーあー、いーあー、ろっきゅう。
あ、この後、忘れた。もう一回、繰り返しておこう。
ドンドンチャ。ドンドンチャ。
「それ、何て曲だい? 斬新で面白いね」
「あ、あの、わかりません。えー、夢で見たんです。大勢でこの曲を歌っていたと思います」
ジョージがにやりと笑った。
「それは神様からのお告げなんだよ」
「え?」
「音楽祭で演奏ではなく、作曲を披露するんだ。それなら、ズルをしたことにはならないだろう」
「そ、そうですかね」
演奏と言っているのに作曲ってありなんだろうか?
「それより、私が作った曲じゃないんです。きっと、旅芸人が来た時に聞いた曲だと思うんです」
「じゃあ、珍しい曲を紹介するというのでいいかもしれない」
「そうそう。ソロで演奏と決まっているのは特級クラスの凄さを見せつけるためのようなものだから。珍しい曲を知っているというだけでも教養があるという証拠になるから」
ジョセフィンもやる気だ。
「音楽祭の幕開けにいいかも。教えてくれたら、私が弾くわ」
「あ、あの、ジョセフィンはヴァイオリンを弾くんでしょう。それなら、弾いてもらいたい曲があるんです」
生演奏で聞いてみたかった曲がある。作曲者という嘘をつかなくていいなら、紹介したい。
「チャッチャ、チャーッチャチャー、チャッチャ、チャーチャチャッチャチャー」
テレビでよく見た番組のオープニング。情熱を込めて歌ってみた。
「いいじゃない」
ジョセフィンが愛用のバイオリンを手に取ると、さらりと最初の部分を弾いた。
神様、ヒロインはこっちだと思います。
ヴィオラは手を合わせた。
その後、ジョージもさらりとピアノで弾くから、自分との才能の差を見せつけられて、ヴィオラは嫌になった。




