ブランの悩み
「おばば、俺、また、明日からハーモニー学園に行くから」
ブランはグラント領で一番の年寄りであるワイバーンのキシリに挨拶に来ていた。
キシリは小さな洞窟に住んでいたが、その住居はため込んだ金や宝石で輝いていた。
「おばばと呼ぶでない。まったく、お前は色が白くなっても失礼なガキのままだね」
おばばがふんっと鼻を鳴らすと、鼻から熱い蒸気が出た。
「長老様って言ったら、おばばじゃないみたいだもん。それより、ちょっと相談があるんだ」
そう言われると、おばばは手を出した。
おばばの知恵を借りるには報酬が必要だ。ブランは小さな布を差し出した。布には金のワイバーンの姿が浮かび上がっている。
「ほう、これは見事な物だね」
「おばばの話をしたら、ヴィオラが作ってくれたんだ」
「刺繍もできるのかい」
「そう、すごいだろう」
目を輝かしてブランはそう言ってから、はあっと息をついた。
「じゃあ、助言をもらえるかな」
おばばはうなずいた。
「俺、従魔になってから変なんだよ。ヴィオラのことが気になって気になって仕方ないんだ。やっぱり、主人になったからかなあ」
おばばは笑いを噛み殺した。
「まず、ハーモニー学園にはどうして行ったんだい」
「いやあ、ここには俺が力一杯遊べる相手がいないから、ヴィオラについていったんだ。でも、何だか最近、ヴィオラと戦いたくなくて。他に戦う相手がいるからかなあ」
ヴィオラたち家族以外にライルやジョージのような強い人間がいるとは思わなかった。戦ってると楽しい。でも、ヴィオラが他の人と話していると、気持ちがモヤモヤする。
「嬢ちゃんは呪いで大変だったんだろう」
「もう、すっかり、元気だよ」
おばばはため息をついた。
「死ぬ可能性だってあったのに、何も心配してなかったのかい」
「だって、俺より強いんだ。死ぬわけない」
「あのね、人間はあっけなく死ぬんだ。脆い生き物なんだ。これは戦いの強さとは関係ない。それを忘れちゃならない。ドラゴンとは違うんだ」
「嘘だ。死ぬわけない」
ヴィオラが死ぬ。そう考えると、ブランは胸が締め付けられるような気がした。
「どうしよう。ヴィオラの呪いが移ったかもしれない。胸が痛い」
「ああ、もう、泣くのはおやめ」
おばばに言われるまで、ブランは自分が泣いていることに気づかなかった。
「ガキだと思っていたら、自分の気持ちに気づいてなかったのかい。いいかい、そんな気持ちになるのは番う相手として好きだからだよ」
「でも、俺はドラゴンで、ヴィオラは人間だよ」
「ドラゴンは普通の生き物と違って、同種じゃなくても、番うことがあるんだ。見てみな」
おばばが目をつぶった。ふんっと息を吐くと、白い蒸気がおばばのくすんだ緑色の姿を隠す。そして、蒸気が消えた時には緑のドレスを着た老婆が現れた。
「おばば、だよな」
「ああ、ちょっとしたもんだろう。ドラゴンは変身できるんだ」
おばばは人間の手を伸ばすと、ブランの頭を撫でた。
「もちろん、ヴィオラの気持ち次第だが、お前もそばにいたいなら、変身できるようになるといい」
「お願いします。教えてください。練習すれば、今日中に変身できるようになるかな」
「無理。と言いたいところだが、まあ、できるだけやってみよう」
おばばの言葉にブランは背筋を伸ばした。




