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【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい  作者: 椰子ふみの
悪役令嬢編

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ルート解放

 ステラおばさんの店に戻ると、おばさんは椅子を並べてくれていた。


「みなさん、どうぞ、座ってください」


 白いテーブルクロスがかけられたテーブルは見たところ、木箱を並べてシーツをかけたようだ。


「気を使わなくていいのに」


 ヴィオラが言うと、ステラおばさんは笑った。


「ヴィオラちゃんだけなら気にしないけど、庶民の食べ方に慣れない人もいるでしょう。それにみんなが店の前に座ってお茶を飲んでくれたら、いい宣伝になるしね」

「じゃあ、遠慮なく」


 テーブルに揚げパンを置くと、すぐにお茶が出てきた。

 ヴィオラはお茶を飲んだ。


「どうしたの? ヴィオラ、揚げパンのお店に行ってから何か変よ」


 ジョセフィンの言葉にみんな、うなずいた。


「いや、染めていないピンクの髪の人に会うとは思わなかったから」

「確かに。ヴィオラの色とそっくりだったわね」


 そう、急いで作った髪染め粉のせいか、元の髪色のせいか、染めている人たちの髪はピンクでもヴィオラの髪色とは少し違う。それがアリアナの髪はヴィオラとまったく同じ色だった。

 ヒロインの証をヴィオラが受け継いだということだろうか。


「頑張るしかないか」


 ヴィオラはつぶやいた。

妊婦さんにヒロインの仕事を押し付けるわけにはいかない。


 ギィー。重い扉が開くような音がしたかと思うと、何も言っていないのにウィンドウが現れた。

 パンパカパーン。ファンファーレも鳴る。

『ヒロイン交代完了。逆ハールートが解放されました』


 ヒロイン交代? これって、やっぱり、アリアナから私になったということだよね。

 ヴィオラは複雑な心境になった。ずっと悪役令嬢から逃れようとして、逃れ込んだ先がヒロインとは。

おまけに逆ハーって、逆ハーレムのことだよね。確かに『聖女は愛に囚われる』の攻略対象者はここにいるけど、なぜ、そのルートが解放されるの?


「ヴィオラ?」


 心配そうにジョージが顔をのぞきこんでくる。慌てて、ヴィオラは揚げパンにかぶりついた。

 甘味が口に広がると、不安も消えていくような気がする。


「おいしいっ」


 ヴィオラが笑うと、みんな笑顔になった。

 ヒロインの代わりに世界を救えというなら、頑張ってみせる。

 ただ、逆ハーレムなんていうのは異常だ。目指すなら、友情エンドだ。

 ヴィオラは固く決心した。



 その晩、ヴィオラの夢の中にまた、女性の声が聞こえた。


「ストーリーを変えた責任を取ってくれるのね。ありがとう」

「あなたは誰なの? 顔を見せなさいよ」


 まぶしい光が落ち着くと、そこには昔のローマ人のようなひだの多い衣装をまとった美女がいた。

 邪悪なものではないのがわかる。オーラというのだろうか。ヴィオラはひれ伏したくなった。


「あなたが強制力って呼んでいた者といえばいいかしら。まあ、運命の女神と思ってちょうだい」

「運命の女神? この世界でもゲームでも出てこないのに」


 この世界、少なくとも、カレイド国はカリーナ神の一神教だ。


「忘れられた神ってところ。あなたがヒロインになる決心をしてくれて嬉しいわ」

「浄化の旅に出ればいいんですよね」

「ええ。魔物が増えてしまうと、魔王が復活するからね。ただ、旅に出るのは元のシナリオ通り、卒業してからでいいから」

「あの、なぜ、乙女ゲームなんですか? ルート解放とか逆ハーなんて必要ないでしょう」

「だって、厳しい戦いになるんだもの。ルートがあったほうが目標が立てやすいし、恋愛という潤いがあった方が心が折れなくて済むでしょう」


女神の上目遣いはあざとかった。

絶対、自分の楽しみのために乙女ゲーム設定にしたなとヴィオラは確信した。


「それより、私の大切な人を殺さないで」

「え? 私、人を殺すような邪神ではないわよ」

「ゲームでアリアナの彼が死んだように私の大切な人が死んだら、許さない」

「あ、それは大丈夫。もう、ストーリーは変わっているから」


 ヴィオラはホッと息をついた。


「じゃあ、がんばってヒロインします。でも、私は逆ハーじゃなく友情エンドを目指しますからね」


 女神は笑った。その姿がどんどん薄くなって消えていく。


「待ってください。まだ、聞きたいことが」


 ヴィオラが呼び止めても、返ってきたのは笑い声だけだった。


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