ピンクの髪
「あ、忘れないうちに言っておこう。私は君たちを説得するために来たんだ」
朝食のホットケーキを美味い美味いと平らげた後、食後のお茶を飲みながら、ミューラー先生は言い出した。
「ジョージ、ライル、イアン、ジョセフィン、トム、ピーター、そして、ヴィオラ。休暇をやめて、学園に戻ってきなさい」
そう言った後、先生はお茶を一口飲んだ。
「と私が説得したことを覚えておくように」
「あの、先生、それ、説得ですか?」
ジョセフィンが尋ねると、先生は深く頷いた。
「はい、できれば、みなさんは説得されないでください。そうすれば、授業に時間を割くことなく、ここで魔力増強について詳しく研究することができますから」
ミューラー先生らしい言葉だ。
「あの、私、すぐに戻りたいと思います」
ヴィオラは胸を押さえた。
「私の見舞いなんかで、みんなが授業を休んでいるなんて」
「ただ、呪いをかけた犯人は捕まっていないんだろう」
ハイラムが心配そうに尋ねた。
「お見舞いの方にはすみませんが帰っていただいて、ヴィオラはもう少しゆっくりしていったら」
ヴィオラは首を振った。
「グラント領に帰って、元気が出たみたい。それに母様に言われて、いやいや入学したけど、いつのまにか、ハーモニー学園が好きになったみたいです。みんながいるから。一緒に戻りたいです」
「もちろん」「心配しなくても守るから」「一緒よ」
ヴィオラの言葉にみんなは口々に賛同してくれる。ミューラー先生はため息をついた。
「仕方ありませんね。じゃあ、明日、一緒に戻りましょう。さすがに私も来た日に帰るのはしんどいので」
「わかりました」
ヴィオラは友達に向かって笑いかけた。
「じゃあ、今日は街を案内するから。田舎だけど、美味しいものはたくさんあるから、楽しみにしてね」
カジュアルな服で街に繰り出すことになった。ミューラー先生は残って、ハイラムとマドラ、レイフをさらに詳しく調べるつもりらしい。
「変装しなくても大丈夫かな?」
イアンがジョージ王太子を気にしている。
「隠してもなぜか、私はすぐにバレちゃうから意味がなくて。でも、私がいたら、街の人も普通に接してくれるから」
ヴィオラは保証した。ジョージは護衛には少し離れてついてくるように指示をした。
「こんにちは」
ヴィオラが歩くと、すぐに街の人が挨拶してくる。
「ずいぶん、距離が近いんだな」
ジョージは目を見張った。街は活気があふれていて、領主の娘に誰もが笑顔で声をかける。理想的な街に見える。
「あらあら、きれいなお嬢さんにかっこいい人をたくさん連れて、どうしたの?」
屋台のおばさんが声をかけてきた。鶏を串に刺して焼いていて、香ばしい匂いが漂っている。
「みんな、学園の友達なの。今日はこの街を案内しているところ」
「あら。ここはいい街でしょ。良くなったのは領主様とヴィオラちゃんのおかげだからね。はい、プレゼント」
おばさんが串焼き肉をまとめて渡してきたのをヴィオラは受け取ると、その中の一本にかじりついた。
「はい、毒見終了」
そう言って、みんなに串焼きを配る。
「美味しいから、すぐに食べた方がいいよ」
ライルはすぐにかぶりついた。
「うまい」
その姿を見て、みんな恐る恐る食べ始める。
「こんなふうに食べるの、初めてですわ。歩きながらって、難しいです」
少し恥ずかしそうにジョセフィンは食べている。
「何か見たいものある? とりあえず、大通りに向かってるけど」
ヴィオラは張り切っていた。
「あの武器屋は職人さんにこだわりがあるので、注文で頼みたい時におすすめ。この本屋さんは魔術書が豊富で……」
ウキウキと説明するヴィオラの視界にピンクのものが入った。長いピンクの髪の女性だ。
まさか、ヒロイン?
思わず、駆け寄った。
「待って。あなたは」
アリアナ? そう問いかける前に女性は振り返った。ヴィオラのよく知っている顔だった。
「キティ。どうしたの? その髪」
服屋の娘だが、髪は茶色だったはずだ。
「染めたのよ」
「え?」
「ヴィオラ様が帰ってから、すぐにいろんな店でピンクの髪染め粉が売り出されたの。ピンクのカツラも売ってるわよ。私はすぐに染めたんだけど、一大ブームになりそう」
「えーっ!」
見渡すと、大通りの先の方にピンクの髪がいくつも目についた。
「ピンクの髪って服を選ぶから、うちも繁盛しそう。ピンクに似合う服を揃えているから、ヴィオラ様もよかったらうちに来てね。お友達もよかったら、ご一緒に」
キティは優雅に会釈すると、店の方に戻っていった。
「嘘」
呆然と見送るヴィオラの前をまた、別のピンクの髪が通り過ぎていった。




