告白
「あの道を拓いたのは誰ですか?」
ミューラー先生は朝の訓練場という早い時間にやってくると、挨拶もそこそこに尋ねた。
「私ですわ」
ジョセフィンの言葉に先生は目を輝かした。
「素晴らしい。豊富な魔力に繊細なコントロール。完璧だ。優秀だと思っていたが、ここまでとは。私の目は節穴だったようだ。私の弟子にならないかね」
ジョセフィンは困ったようにヴィオラを見た。
「あの……、私だけじゃなく、ここにいる人はみんなできるんじゃないかと思います」
「みんな?」
先生が生徒たちを見つめ、それから、ハイラム、マドラ、レイフを見る。
「ヴィオラさんのご家族は私たちより優秀なんです」
ライルが説明すると、先生はルーペを取り出し、一人一人、近づいて眺め始めた。
「すごい、すごい。最高レベルの魔力じゃないですか。ヴィオラさんの魔力が豊富なのは遺伝なのか、それとも、このグラント領に秘密があるのか」
興奮して先生は喋りながら、ノートにメモを取り始めた。
「ヴィオラさん考案の魔力増強法でみんな鍛えているからだと思います」
ライルが真面目に答える。
「魔力増強法? 何だね、それは。早く教えたまえ」
女子会で寝不足のヴィオラは少し離れたところにマットを広げ、ミヤと座っていたが、そこまでミューラー先生が詰め寄ってきた。
「お嬢様は療養中でございます」
ミヤが前に出る。
「ブラン。レイフと一緒に先生に説明してあげて」
「えー」
ヴィオラの言葉にブランは不満そうだったが、レイフにパッとわしづかみにされた。
「姉様、お任せください。先生、姉様のお手を煩わせないでください。僕たちがきちんと説明します」
先生は教えてもらえるなら、誰でも構わないという感じだ。早速、説明を聞いて、試し始める。
ヴィオラはぼんやりとみんなが訓練するところを眺めていた。
「ねえ、昨日の話の続きだけど」
気がつくと、トムがそばに来ていた。少し離れてピーターもいる。
「外国や海に興味があるのなら、ヴィオラさん、私と一緒に旅行しませんか?」
「そうできたら、いいですけど」
そんな勝手はできないだろう。
「私と婚約するのはいかがです? あなたの望む場所へどこへでも連れて行って差し上げます」
「旅行のために婚約ですか。私、本名も知らない方との婚約なんてできません」
「偽名とお気づきでしたか」
「みんな気づいてますよ」
ミヤのような使用人をいない者として婚約を持ちかけるのはいかにも貴族らしい。
トムは優雅にお辞儀した。平凡な外見が薄れ、褐色の肌の美形が現れる。
「では、改めまして。トーマス・ジェラード・レノックスと申します」
「レノックス帝国の」
「皇帝の七男になります」
聞きたくなかった情報だ。
「この国で変な行動はやめてもらえないか」
ジョージ王太子がピーターの腕をひねり上げている。
「私の従者が何かしましたでしょうか」
「私がこちらに来るのを邪魔しようとした」
「すみません。私がヴィオラさんへ告白するのを他の人から隠そうとしたのでしょう。お許しください」
トムが軽く頭を下げる。
「まあいい」
ジョージがピーターの腕を放す。
「ただ、ヴィオラさんを自分の国に取り込むために婚約を持ち出すなど、卑怯な真似はやめてもらいたい」
「卑怯? 私は本当にヴィオラさんを自分の伴侶として迎えたいと思っているのですが」
は、伴侶。インパクトのある言葉だ。
「ハイラム殿はヴィオラさんの希望なら許すとおっしゃいました。だから、ヴィオラさん、今すぐが無理でも私のことを考えていただけないでしょうか?」
だーかーらー。顔を近づけないでほしい。美形のドアップは心臓に悪い。
「離れろ」
ジョージがトムの肩を引く。
「ヴィオラさんを取られるのが嫌か」
「当たり前だ」
「優秀な人材を逃したくないってか」
「いや、ヴィオラさんが好きだからだ」
ちょ、ちょっと待って。
ヴィオラは赤くなった。
「大切な後輩、いや、友人だ」
ジョージの言葉にトムは笑い出した。
「恋愛するのに早すぎるのはヴィオラさんだけじゃなかったか」
なぜ、笑い出したのか、わからないでいるヴィオラの手を取ると、軽く口づけ、トムは言った。
「最初にプロポーズしたのは私だと覚えていてくださいね」
ヴィオラは困って、ミヤの方に助けを求めると、ミヤはニヤニヤ笑ってみせた。




