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イアン

 ヴィオラが空いた席に座ると、ジョージ王太子は前の演台の方に向かった。ヴィオラはホッとすると、キョロキョロとまわりを見回し、ピンクの髪の少女を探し始めた。近づかないためにもヒロイン、アリアナの居場所は確認しておきたい。ピンクの頭はこの世界でも珍しいから、すぐに見つかると思ったのに見当たらない。


「まさか、髪を染めて別の色になったりしていないよね。こういう時、鑑定魔法が使えたら便利なのに」


 ヴィオラは色々な魔法を身につけたが、どれも、パワー系で繊細な、例えば、鑑定、探知などは使えなかった。治癒魔法ですら、部分的にかけられない。治す時は全身全てだ。


「痛っ」


 急に隣から手が伸びてきて、つねられた。


「殿下のお話が始まるのに何をしてらっしゃるの。失礼じゃありません」


 小声で注意してきたのは金髪で縦巻きロールの少女だ。これぞ、お姫様って感じ。


「すみません」


 いきなり、つねるのも失礼だろう。と、思ったけど、独り言を言っていた自分が悪いので、黙って、頭を下げる。みんな、真剣な顔で前を見ているので、ヴィオラも真っ直ぐ前を見た。壇上ではジョージ王太子が入学の祝辞を述べている。自分で内容も考えているのだろうか、そつがない。

 一瞬、目が合ったような気がしたけど、きっと、気のせいだろう。

 王太子の話が終わると、次は新入生代表の答辞だ。


「新入生代表のイアンです。本日は……」


 またもや、攻略対象者。薄い水色の髪に片眼鏡というインテリキャラだ。新入生代表って、入試成績一位なんだよね。さすが。

 イアンとも目が合ったような気がする。

 自意識過剰かなと独り言を言いそうになって、慌てて、ヴィオラは両手で口を押さえた。隣から睨まれているのは気のせいじゃない。

 入学式が終わると、クラスへの移動だ。

 誰かと一緒にと思ったけど、もう、グループができているみたいですぐに歩き出している。後から声をかけるのも気がひける。

 悪役令嬢の運命から逃れるため、ヴィオラは攻略対象者とうっかり出会わないように王都は避けていた。だから、普通なら入学前に他の貴族たちと交流を深めておくところを何もしていない。知り合いゼロだ。


「だから、この学園には入りたくなかったのに」


 思わず、本音をこぼしてしまった。


「どういう意味ですか? 我が国の最高学府に何の不満があるのか、聞かせてもらいましょうか」


 インテリというより嫌味っぽく話しかけてきたのはイアンだった。


「いえ、不満などございません。私がただ、この学園にふさわしくないだけでございます」


 ヴィオラはつられて、馬鹿丁寧に答えた。

 さ、さっさとクラスに行こうと歩き出すと、後からイアンがついてくる。


「ヴィオラ•グラント。入学試験の算術で私より高得点だったと聞いて、会うのを楽しみにしていたのだが」


 え? 天才少年に私が勝ったの? ヴィオラは入試問題を思い出した。確かにこの世界の算術は簡単だった。連立方程式とかがないようだが、鶴亀算だって、xyを使って解く方が簡単だ。


「光栄です」


 ヴィオラが振り向いて言うと、イアンはふっと鼻で笑った。


「まさか、いきなり、王太子に迫るような者だったとはな。グラント伯が金にあかせて、娘を入学させたという噂は真実だったか」


 ゲームの中でヒロインのアリアナが成績優秀で入学した時、褒めたたえていたくせに、どうして、不正だと決めつけるの? 私が悪役令嬢だから? これがゲームの強制力なら私は戦ってみせる。


 パシッ。

 ヴィオラはハンカチを力一杯、イアンの顔に叩きつけた。


「手袋の代わり。あなたに決闘を申し込む。私のことは何を言ってもいい。けど、父様を侮辱するのは許さない」

「け、決闘?」


 イアンはハンカチが当たった頬を押さえて、ポカンとしている。


「君たち、何をしている。担任のミューラーだ。早くクラスに来ないか」


 そこへ先生がやって来た。背が高く、真っ直ぐな長い黒髪を後ろで一つにくくっている。目元は前髪で隠れているが、口元は整っている。

 攻略対象者ではなそうだけど。


「決闘を申し込んでいたところです」


 ヴィオラはとりあえず、状況を説明した。


「は?」


 ミューラー先生は変な声を出した後、咳払いをした。


「今日は学園の説明だけで終わりだから、その話は後で聞かせてもらおう。まずはついてこい」


 ヴィオラとイアンはおとなしく先生に従った。

 二人とも成績優秀者の入る特級クラスだったが、遅れて入ったので、また、注目を浴びてしまった。

 生徒の人数はヴィオラを入れて二十人。中にはさっき、ヴィオラをつねった金髪美少女もいた。自己紹介によると、ジョセフィンという名前だった。

 自分の番が来ると、ヴィオラは緊張しながら立ち上がった。


「ヴィオラと申します。都会に不慣れな田舎者ですが、どうぞよろしくお願いします」


 なぜか、生徒の中で拍手してくれたのはジョセフィンだけだった。


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