ラブポイント
「ステータスオープン」
小声で唱えると、ウインドウが現れる。
ヴィオラが自分のステータスを確認するのは一年ぶりだった。自分のレベルをカンストしてしまったので、見ても変化しなくなったからだ。
ただ、今回、三日も意識がなかったようなので、こんな時こそ、状態を正しく把握したい。
まず、MPは上限のままだけど、呪いが残っているせいか、HPは八割程度だ。
そこまではいい。
『新しい能力が解放されました』って、何?
「ヘルプ」と唱えると、ずらずらと説明が流れた。
新しい能力はLP。ラブポイントの略。攻略対象者からの好感度を集めると、聖女に近づくって、乙女ゲームじゃあるまいし。
いや、まあ、『聖女は愛に囚われる』はそういう乙女ゲームだった。でも、LPを上げるのは簡単だった。HPやMPを上げるのは大変だったけど。攻略対象者別にLPが出るようになっている。ライル、ジョージ、イアン、それに???と名前が伏せられているところもある。ポイントは全て0。うーん。ライルやイアンからは少しは好意を持たれてると思っていたんだけど。
それにしても、今さら、ステータス画面が変わるなんて。
ヴィオラは手鏡を取った。まだ、慣れないピンクの頭をした自分。ヒロインと同じ色。そして、あの夢。ヒロインは必要でストーリーを変えた者が責任を取れって。
「変えたのは確かに私だけど。まさか」
バタバタッと足音が近づいてきたかと思うと大柄な男が部屋に飛び込んできた。
「ヴィオラ!」
「お父様、どうしてここへ?」
「よかった。無事なんだな」
ハイラムはヴィオラをギュッと抱きしめた。
「よかった、よかった」
ヴィオラは強く抱きしめられて、苦しいくらいだった
「父様、私、こんな髪になってしまいました。呪いなので、新しく生えてくる部分もこの色になるし、染めることもできないそうです」
「そうか。でも、お前は可愛いからピンクも似合うよ」
頭を撫でられて、ヴィオラはおかしくなった。きっと、何色になっても似合うと言ってもらえる。可愛いと言ってもらえる。
意地悪をされても、避けることができるから平気だと思っていた。でも、悪意をぶつけられて疲れていたのかもしれない。ただ、愛してくれる父に抱きしめられるのがこんなに嬉しいとは思わなかった。
「なあ、ヴィオラ、グラント領に戻らないか?」
「え? でも、お母様が」
「卒業しなくてもいい。好きな時に戻っておいでと言っていた」
でも、本当に卒業しなくていいのだろうか。
「今すぐに決めなくてもいい。ただ、一度、グラント領に帰らないか。しばらくは休むのだろう。それなら、うちでゆっくりと療養すればいい。マドラも心配している。元気な姿を見せてやってほしい」
「ええ。帰りたいです。でも、呪いが伝染するかもしれないから、この部屋から出られないんです」
ミヤはそばにいてくれるが、面会謝絶状態で一人じっとしているのはつらい。
「伝染しても髪の色ぐらい、構わないさ。神官から詳しい話を聞いてくる」
父様がピンクの頭になったら、イメージが合わないと思ったが、そう言ってくれると、ヴィオラの気持ちは軽くなった。
「大丈夫だ。今日、許可を出すつもりだったらしい」
すぐにハイラムが戻ってきた。ハイラムが乗ってきた馬を休めたいということで学園に馬を預け、三人で馬車に乗った。
カレイドルの街を出てしばらくたった時だった。
「後ろから追いかけて来る男がいますぜ」
御者の言葉にミヤが窓の外を見た。
「お嬢様、あれはライル様のようです」
「えっ。ちょっと止めてちょうだい」
追いついたのは確かに旅姿のライルだった。さっと、馬から飛び降りる。
「ヴィオラ。グラント領に行かれるとのこと。お供させてください」
それから、すぐにハイラムに向かって頭を下げる。
「お嬢様の騎士のライルと申します。どうか、護衛としてお供をすることをお許しください」
「何を言っているの。学校はどうするの」
「休暇届を出して来ました」
「私のためにそんな馬鹿なことしないで」
「馬鹿じゃありません。今回、呪いを防ぐことができず、申し訳ありませんでした。どうか、首謀者がはっきりするまではそばで護衛させてください」
「いいじゃないか」
ハイラムがにやりと笑った。
「ありがとうございます」
「あの、それなら、お客様として私の家に泊まってください」
「よろしいんですか?」
ライルは目を輝かせた。
「ああ、構わん。護衛というなら、そばにいなくては意味がないからな」
ハイラムの許可が出て、再び、馬車を走らせ始めた。
「ステータスオープン」
ささやき声でも、ウインドウが表示される。LPのライルの欄には100というラブポイントが表示されていた。




