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【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい  作者: 椰子ふみの


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ライルの女神

 ライル・コン・ブリオは焦っていた。

 だから、自分より年下の女の子に弟子入りするというあり得ないことをしたんだと思う。


 ライルは小さい時から体が大きく、力が強かった。走っても何をしても、同年代で一番だった。父から厳しく鍛えられても、余裕だった。たまにおじの騎士団長に稽古をつけてもらっても、褒められた。


「ジョージ殿下と年齢が近いから、近衛騎士になるのもいいかもしれない」


 そう言われたら、自分の将来は決まったように思っていた。

 ジョージ王太子と初めて会った時、そのいかにも王子様な姿に将来は俺が守るんだと決心した。

 それなのにライルはハーモニー学園の武闘会で王太子に負けてしまった。


「やっぱり、ライルは強いね。でも、年下には負けたくないから頑張ったよ」


 爽やかに笑う王太子にはまだまだ余裕があった。


「護衛対象となる方に負けてどうする」


 父にはひどく叱られた。


「まあ、あの方は特別だから」


 おじの取りなしがかえって辛かった。

 誰よりも強いと慢心していたのかもしれない。おじには勝てないくせに同年代では一番という、ちっぽけな世界でいばっていたのだ。ライルは反省して、必死に体を鍛え、訓練した。それなのに、次の年も負けた。


「身体強化をきちんと身につけない限り、戦闘力に限度が来るぞ。基本を見直せ」


 注意されても、難しい。身体強化すると、自分の速度も力も何もかも変わってしまう。うまく、コントロールできずに無駄な動きが増え、かえって負けるようになった。

 そんな長いスランプの中でも、毎日、山で鍛錬するのを欠かさなかった。


「すごい」


 師匠と初めて会った時、ライルはそれ以外の言葉が出なかった。

 ものすごいスピードで山を登っていく少女。身体強化だろう。どう見ても鍛えた体ではない。

 そして、現れた黒いドラゴン。

 弱き者を助ける。それが強き者の役目。そう聞かされて、育って来たから、自然と体は前に進んだ。守らなければ。

 ただ、今の自分では勝てない。

 ライルは冷静に考えた。一撃を与え、その隙に少女を連れて逃げる。

 決死の覚悟だったのに、なぜか、ドラゴンは逃げ、そして、少女は空から落ちてきた。

 とっさに受け止めたが、少女は軽すぎて、まるで精霊のようだった。


 その時は何も思わなかったが、それから、しばらくして、少女が大岩を割るのを見て、弟子入りを決意した。家を通じて面会を頼んでも、なかなか会ってもらえず、最後は強引に頼んで師匠になってもらった。

 それは大正解だった。

 ライルは修行するうちに、みるみるうちに身体強化が自由に使えるようになってきた。師匠の教えてくれたコツで魔力量も伸びてきた。ドラゴンと従魔契約まで成し遂げる師匠から学んでいるのだ。できて当たり前かもしれない。


 今回の武闘会は俺が勝つ。ライルは自信を持って挑んだ。順調だったが、慢心しないように気を引き締めた。師匠がそばで見ていると思うと、力が湧いてくる。

 もちろん決勝の相手はジョージ王太子だった。

 やはり、強い。

 それでも、負ける気はしなかった。王太子の必死な顔を初めて見ることができて、嬉しかった。

 勝った!

 そう思ったのに、世界は暗転した。

 次にライルが気づくと、そこには師匠がいた。心配そうな顔でライルの顔を覗き込んでいる。


「大丈夫?」


 気を失っていたのか。


「俺、負けたんですね」


 情けない。


「すみませんでした。教えを生かすことができず」

「待って、待って」

「え?」

「負けてないから。引き分け。残念だけど、引き分けだから。負けなかったんだよ。すごかった。よくやったよ」


 師匠は早口に言った。ライルが気落ちしないように励ましてくれている。そうだ。師匠のおかげで初めて王太子と引き分けることができたんだ。

 もう、焦る必要はない。

 師匠の後ろにジョージ王太子が横になっていることに気づいた。大勢の人に囲まれている。当たり前だ。それなのに、師匠は王太子ではなく、俺の側にいることを選んでくれた。

 ドクン。胸が苦しい。

 師匠の心配そうな顔が愛おしくて仕方ない。

 ああ、この気持ちは師匠に対するものではない。

 今さら、ライルは気づいた。師匠は可愛い女の子だ。なぜ、気づかなかったのだろう。身体強化が上手いとしか、認識していなかった。


「次は勝ちます」

「もちろん」


 ヴィオラが笑顔で保証してくれる。


「ヴィオラ……さん」


 人前では師匠と呼ぶなと言われていた。いや、もう、師匠とは呼びたくない。名前を呼びたい。愛称で呼びたい。それでも、今はまだ、呼び捨てにはできない。

 小さな女神。俺の勝利の女神。好きだ。大好きだ。

 ライルは思わず、ヴィオラの手を取ると、その甲にそっとキスをした。

 ヴィオラの顔が見るまに赤くなり、ライルはそれを見るだけで幸せになった。


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