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【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい  作者: 椰子ふみの


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武闘会

「本武闘会のルールを説明いたします。秋の魔法大会との重複を避けるため、魔法を使っての直接攻撃は禁止とします。身体強化は許可します。使用する武器はあらかじめ、生徒会でチェックを行い、ミューラー先生にご協力を頂き、切れなくなる魔法をかけてもらっています。降参、気絶、場外の場合、負けとします。それでは、第一試合を始めます。青、中等部三年、ライルさん、赤、高等部二年、ダリオさん」


 アネモネ様は試合アナウンスの担当だ。女性らしく聞き取りやすい声で前世のアナウンサーを思い出した。

 ヴィオラは準備期間はバタバタ走り回っていたが、開始後は救急担当なので、近くで試合を見ることができる。

 しかも、いきなり、ライルだ。

 真面目なライルは今朝も修行したし、身体強化も上手くなっているので、ぜひ、優勝してもらいたい。

 そんなことを考えていると、ライルが一段、高くなっている試合場に上がった。こちらを見たので、頑張ってとジェスチャーする。

 ライルが深々と頭を下げると、相手のダリオに向かい合った。背の高いライルだが、やはり、歳上の相手の方が体格がいい。

 服装はRPGの冒険者のようなイメージだ。この世界はヨーロッパの中世っぽいのに全身を覆う鎧はない。たぶん、『聖女は愛に囚われる』を作った人たちは登場人物の顔や体を隠したくなかったんだろう。


「勝てるよ、ライル。行け!」


 生徒会の一員として、片方にだけ声をかけるのよくないと思うので、ヴィオラは小声で応援した。

 審判が真ん中に立ち、二人の剣を確認した。それから、試合上から降りると、片手を挙げた。


「始めっ」


 審判の手が振り下ろされた瞬間。

 シュッ。

 疾い。ライルの動きをきちんと見ることができた人は何人いただろう。

 気がついたら、ダリオの首にはライルが剣を突きつけている。


「降参か?」


 ライルが剣を下ろして尋ねた。


「意表をつかれただけだ。馬鹿が」


 ダリオが剣を振るう。ライルが剣で受け止める。

 カンッ、カンッ。

 打ち合いの音が響く。

 ライルには余裕が見える。それなのに次の瞬間、ダリオの剣がライルの腹部に当たった。切れないと言っても、全力で振るった剣だ。ライルが後退りをする。

 それを追いかけるようにダリオが剣を振り下ろす。

 ガッ。

 次の瞬間、地面に倒れ込んでいたのはダリオだった。剣を落とし、手首を押さえ、痛みに歯を食いしばっている。


「降参か」


 ライルが確認すると、ダリオはうなずいた。

 素早く審判が宣言する。


「勝者、ライル!」


 歓声の中、ライルが試合場を降りて行く。

 ヴィオラを見ると、笑いながら、お腹をさすった。痛いはずがない。どんな時でも身体強化を緩めないように鍛えてきたのだから。


「わざと攻撃を受けて、自分の防御能力を確かめたのか」


 修行の相手はヴィオラかドラゴンのブランだから、普通の人の力が知りたかったのだろう。

 負けたダリオは救急のテントに運ばれてきた。

 変な角度に手首が曲がっているから、骨折だろう。


「私がやりますね」


 治癒師の先生に声をかけてから、ダリオに話しかける。


「大丈夫ですか? すぐに治りますからね」


 ライルに負けた相手だ思うと、嬉しくて、優しい声をかけてしまう。

 そっと、ダリオの手を握る。よほど、痛いのか、ダリオはすがりつくようにヴィオラの手を握った。ヴィオラが慎重に治療する時の呪文は決まっている。


「痛いの、痛いの、飛んでけー」


 ダリオのしかめた顔が驚いた顔に変わる。


「い、痛くない」

「よかったです」


 ヴィオラはにっこりと微笑んだ。

 その顔にダリオは見惚れた。


「早く手を離せって」


 ブランがダリオの手を蹴った。慌てて、ダリオが手を引っ込める。


「お大事に〜」


 ヴィオラが愛想よく手を振ると、ダリオは赤くなって帰って行った。


「あんなふうに殿方の手を握ったりするものじゃありません」


 ダリオが去ると、すぐにジョセフィンがヴィオラに注意した。ジョセフィンは記録員として、隣で勝敗や技を記述している。


「治癒のために触っただけです。手を握ったのはダリオさんですし」


 ヴィオラの言葉にジョセフィンはハーッと息を吐いた。


「それなら、すぐにふりほどかないといけません。ダリオさんがあなたに見惚れてましたわ。勘違いした男性ほど厄介なものはありませんから」

「え、あんなぐらいで勘違いする人はいないでしょ」

「あなたは愛想がよすぎるんですよ」


 そんなことをしゃべっていたら、ワッと歓声が上がる。

 前年度優勝者のジョージ王太子だ。

 生徒会でもキラキラしている人だが、観客ににこやかに手を振る姿は理想の王子様だ。

 相手は緊張しているのか、動きがぎこちない。


「始め」


 ゆっくりと打ち合いが始まった。型の練習のようだ。相手も緊張が解けてきたのか、いい動きになってきた。

 それにしても、王太子の剣は正統派で美しい。


「一度、剣を交えてみたいな」


 思わず、漏れた本音にジョセフィンからにらまれる。

 最後は簡単に剣を突きつけ、相手の降参で王太子が勝った。まるで、稽古をつけてやったような試合だった。

 大きな歓声がまた、上がる。


「さすが、王太子としての身分を考えてらっしゃる。格下の相手でも恥をかかせることなく、誠意をもって戦って差し上げる。これで武闘会のたびにジョージ様に心酔する人が増えていくのも当たり前ですわ」


 ジョセフィンが褒めちぎった。

 試合はどんどん進む。やってくる怪我人をヴィオラは片っぱしから治した。


「魔力底なしなんですね」


 治癒師の先生が感心した。

 そして、決勝戦を迎えた。一人は涼しい顔で勝ち抜いたジョージ王太子。もう一人は初戦以外は相手を一瞬で打ち倒してきたライルだった。


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