表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

#3

短編作品(全6話中の3)

 洞窟内に黒竜の笑いが響く数刻前――

 逃亡したイェルクを追い、伯爵家の追跡者たちがダンジョンと化した洞窟を進んでいた。

 伯爵家の次男、フランシスが率いる追跡者は、主に冒険者たちで構成されていた。

 冒険者は筋骨隆々とした戦士の男を先頭に、剣を携えたエルフの女、若い剣士、女魔法使い、女神官、ハーフリングの斥候スカウトと、ダンジョン攻略には申し分ない布陣だ。


 一方、フランシスは、彼自体が大剣を背負い、傍らにメイスと重厚な鎧を装備した騎士一名を従えるのみであった。たった一人の魔術師を捕らえるには充分な構成だろう。

 それと、他に一名、長い黒髪とひげだらけで、片腕がなく足の不自由な男が一向に同行していた。この男の名はアレクといい、この魔竜の洞窟に詳しいということで、フランシスが行程の途上、立ち寄った山小屋から引き連れてきた男だった。


 一行は、冒険者たちを先頭にして慎重に洞窟の中を進んで行く。洞窟の奥へ進むたび、倒れた魔物の死骸が目についた。


「ひっ……!」


 フランシスはそのたびに情けない悲鳴をあげ、冒険者たちは互いに顔を見合わせる。ついにはエルフの女剣士がため息交じりに呟いた。


「……少し静かにして」


 若い剣士が先頭の戦士に耳打ちする。


「まさか、このまま最後までこれを聞かにゃならんのかね」


 戦士は「さあ?」と肩をすくめた。


 それよりもと、戦士の心配は他にあった。

 これらの死骸は、イェルクによって作られたもののようだ。これは追っている者が、ただの魔術師ではないかもしれん、と――その考えを聞かされた冒険者たちは、不安そうに視線を交わす。


 最後尾を歩いていたアレクが、ふと立ち止まり、静かに言った。


「この先は危険だ……隠し通路がある。こっちだ、来い」


 迷うように互いを見やる冒険者たちだったが、やがてリーダー格の戦士がフランシスを見て口を開く。


「どうする? あんたが決めてくれ」


 そう言われたフランシスは、騎士の意見を聞き、口ひげを撫でながら答える。


「わかった、お前を信じよう。案内せよ」


 こうして一行は、アレクの導きに従い、最奥を目指した。


 隠し通路は人が一人通るのがやっとの狭さだったが、魔物の気配はなく、安全に進むことができた。途中、フランシスや冒険者たちは「なぜこんな通路を知っているのか」とアレクを訝しんだが、彼は「俺に案内を頼んだのはお前たちだろう」と一笑に付した。


 その時――洞窟内に、竜の咆哮が響き渡った。


 ビリビリと空気が震え、狭い通路が崩れそうな錯覚に陥る。フランシスは驚きのあまり腰を抜かし、冒険者たちも身構えた。

 やがて咆哮が静まると、アレクは顎に手を当て、訝しげな表情を浮かべた。もっとも、ぼさぼさの髪とひげに覆われた顔では、その表情も判別しづらい。ただ、何かを考え込んでいるのは明らかだった。


「やはり、竜が咆哮をあげるのは珍しいのか?」


 リーダー格の戦士が問いかける。


「そうだな……お前たちが追っている魔術師が“竜の間”に辿りついたのかもな。大した奴だ……だが、少し気になるな……」


 そう答えながらも、アレクの思考はすでに内へと沈んでいた。


「何がだ?」


 戦士が重ねて問いかけるが、アレクは独り言のようにブツブツと呟きながら、先へと歩みを進めていく。冒険者たちとフランシスも、その背を追った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ