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083 親子喧嘩

 カレンのピアノの腕は、思いとは別に上がっているようだった。母のマギーはカレンの演奏を聴きながら、満足そうに講師のジョエルに微笑んでいる。


 父のギルスはというと、既にカレンに関心を無くしており、骨董品や絵画の情報を商人を呼んでは詳しく聞いている。


 そんな中、カレンだけは従順にピアノを習いながらも、怒りの感情を少しずつ蓄えているのであった。



 


 ある日の食卓。


 カレンの食事が、なかなか進まないことにマギーが気づく。

 「カレン。ピアノには体力も必要なのです。しっかり食べなさい」


 「‥‥」

 カレンは無言で反抗する。まだ六歳で毎日何時間もピアノだけに時間を費やしているのだ。疲労でうまく食事が出来ないのだ。

 

 さらに注意を受けるうちに、食事を疎かにすればピアノが嫌になってきているのを分かってもらえるかも、という考えも沸いてきていた。


 しかし、そんなカレンを理解するような親ではない。


 やはり、はっきり言葉で表すしかないかもしれない。


 とはいえ、相当な体力を消費して空腹なのも事実。カレンにも食べたい気持ちはある。だが、手がいうことをきかない。


 マギーがイライラしながらカレンを叱る。

 「カレン!しっかり食べなさい!次の練習の時間に間に合わないじゃないの!」


 この言葉にカレンの怒りに火が点いた!


 「でしたら食事は要りません!」

 と、カレンが立ち上がってマギーを睨み付ける!


 マギーは思わぬ大きな声に驚きながら、小さなカレンに立ち向かう!

 「いけません、カレン!ピアノには体力が必要なのですよ!」


 「ピアノなんか辞めます!」


 カレンがずっと言いたかった言葉だった。だが、言葉だけではこの親は納得させることは難しい。


 マギーは激昂して言い返す。

 「カレン!貴女からピアノを取ったら何が残るのです!運動神経も教養もそこそこで、ピアノしか光るものがないのよ!」


 この母は娘に対して、続けて欲しいのか辞めて欲しいのか、貶すような説得をしてきた。


 カレンは唇を噛み締める。

 「口を開けばピアノ、ピアノって‥‥私は六歳です!お友達も欲しい!遊ぶ時間だって欲しい!お母様はどうしてそれが分かりませんの!」


 マギーが娘の思わぬ反抗に唇を震わせる!

 「お母様に何て口のききかたなのです!許しませんよ!」


 許さないと言われたカレンは決意する!この頑固な親を説得するにはこうするしかない!


 カレンは震えながらフォークを手にする!


 そして、左手をテーブルに置くと右手を振り上げた!


 マギーはカレンが何をするのか分かったがもう遅い!


 カレンは自ら左手にフォークを突き刺してしまった!


 マギーは大混乱している!


 カレンにピアノを弾かせられない!‥‥


 ジョエルを講師に呼んだというのに勿体無い‥‥


 世間にはどう言い訳すれば‥‥




 と、カレンの止血など、しなければいけないことより、ピアノが出来なくなり、周りに対してのアドバンテージを失うことの恐怖が勝っているようである。


 カレンは左手にフォークを突き刺したまま、マギーに背を向けて部屋を出ようとする。


 マギーは、ハッとして

 「カレン、どこに行くのです!」

 と呼び掛ける。


 カレンは覚悟を決める。

 「私はピアノを弾くための機械じゃない!人間なんです!私は人間なんだあ!」


 と、叫んでそのまま家を出てしまった。


 


 家を飛び出したカレンは怒りで忘れていた痛みを感じる。


 そして、突き刺したままだったフォークを我慢しながら思い切り引き抜いた!


 痛みに耐えかねてかなり大声を出してしまうが、忌まわしいあの家のフォークを投げ捨て、持っていたハンカチを左手に不器用に巻いた。


 そんな様子を周りの貴族たちが見ていたが、助けるより、関わらない気持ちが強く、みんな見て見ぬふりをしている。



 カレンは行く宛が無かったが、貴族とはもう関わりたくないと、貴族エリアを抜けて平民エリアに向かうのであった。





 

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