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081 カレン・レガット

 三人の戦士とアスカはクエストを終えると夜遅くまで町を巡回している。


 預かり所の一員になってから行っている事だが、巡回しているうちに、担当エリアの子供がどこの家族で幾つくらいなのか、おとなしそう、元気そう、などを把握出来るようになってくる。


 そしてその親もどのような親なのか知っていくようになる。


 しかしそれでも知りにくい場合がある。


 それは、相手が貴族の場合である。


 貴族の住居は固まったエリアの中にあり、平民と分けられている。また、平民は貴族エリアには入れないため、巡回も貴族の騎士団のみとなっている。


 その貴族の中である家族がいた。


 レガット家という下級貴族だ。


 貴族には嗜みが重要で、それをきっかけにのしあがる事がある。但し、人気の趣味となれば競争相手も多くなり、相当レベルが高くないと見向きもされない。


 そんなレガット家に逸材が現れた。六歳になる娘のカレンにピアノの才がある事が分かったのだ。


 カレンの両親は期待していた。ピアノなら楽器の中でも主役級。腕を認めてもらえば、上級貴族や王族などの目に止まり、繋がりを持つことも夢ではない。


 そこで父親のギルス・レガットはピアノ一点に絞り、カレンに習わせるように仕向けた。


 通常、貴族は平民と違い、文字や計算などの教育を平行させて習わせるのだが、ピアノは目立つ楽器だけにライバルも多くいる。


 ギルスはカレンが若いうちにピアノのレベルをどんどん上げさせようと躍起になっていく。


 当のカレンも最初は好きなピアノを長時間学べて楽しそうであったが、友達と遊ぶことも出来ないので苦痛を感じるようになる。


 母親のマギー・レガットは父親と同じくカレンのピアノに賭けており、時折おやつなどを出して励ましてはいるものの、娘の苦痛には気づいていない。


 


 そんな中、少年少女ピアノコンクールが行われる時期となった。


 毎年一度開催しており、優勝者は王族の前での演奏披露を行うことになっている。


 六歳から十歳までの部門にカレンが出場するのだが、カレンはあまりやる気がない。


 それに反して両親はこれに全てを賭けているかのようにカレンを必死で鼓舞している。


 カレンは冷静だった。


 カレンがもし全力でピアノを弾いたとしても、年長のライバルの方が実力は上だ。


 今回頑張らなくても少しずつ実力をつけて、年長になる頃に優勝を狙えるようにする。そういうわけにいかないのだろうか。


 だが、そう考えた後に両親の顔を見ると、そんな悠長な雰囲気ではない。


 両親はレガット家の格が上がることしか頭にない様子。


 カレンは初め、誰でも弾けるような幼稚な曲にしようと考えていた。勿論、親を困らせるためだ。


 でも、自分の出番となる直前に考えを改める。


 今自分の出来る最高レベルの曲に全力で弾いてみることにした。


 それを見て両親も自分の実力が他のライバルと比べて、やはりまだまだだなと思ってくれたら成功だ。


 カレンの出番となり、会場に礼をして演奏を始める。


 優勝のプレッシャーもないので緊張はしていない。


 いつも練習している通りのように譜面を進めていく。


 何百回も弾いてきた曲だが、六歳のカレンには技術的に難しい部分が多く、満足のいく演奏に辿り着く可能性は二割ほどだ。


 その可能性の低さが、次こそは満足したい、成功したいという向上に繋がっていた。


 感情を入れるところも分かっている。


 初めは緩やかに、クライマックスに向けながら激しさを増していく。


 そんなカレンの演奏を、会場の来客たちは感心しながら聴きいっている。


 カレンの指がフィナーレへ誘う。


 クライマックスから続いている激しさを保ちながら、冷静にテンポを守ってフィナーレまでほぼ完璧に近い演奏を弾いてみせた。


 カレンは再び会場に礼をすると、割れんばかりの拍手が沸き起こった。


 自分としては最高に弾き切った。


 優勝にはならないだろうが、これで両親が少し冷静になってくれたら、とカレンは期待するのであった。





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