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008 おやつ抜き

 食事が終わり、育児スペースに戻るとジャンたちがクエストから戻ってきた。


 「やあ新人さんかい。オレはジャン。よろしくな」


 ジェニファーは華麗に無視をする。


 ジャンは無視されたことが受け入れられなかったのか独り言を始めた。

 「オレ‥‥挨拶したよな‥‥おかしいな‥‥」


 ビスマルクとウィリアムはすぐに曲者だと思ったのか、シャオランを見る。


 シャオランは不機嫌そうな顔つきで説明した。

 「お貴族のお嬢様だってさ。ジェニファーってんだ」


 ビスマルクとウィリアムはそうと分かると腫れ物に触るように挙動不審になっていった。


 そんな中、ジェニファーがバルトを呼び寄せた。

 「貴方、馬になって下さる?」


 戦士たちが仰天する。バルトは町を救った英雄だ。貴族のお嬢様とはいえ、あまりに侮辱的ではないかと思ったが、肝心のバルトは何も言わず四つん這いになった。


 シャオランもこれには驚いている。


 ジェニファーはバルトの背中に乗ろうとしたがバルトが大きすぎて乗ることが出来ない。


 「ちょっと貴方」

 と、ジェニファーがジャンを呼ぶ。そして自分をバルトに乗せるように指図した。


 ジャンはさすがに躊躇する。

 「い、いいのかよ、バルトさん‥‥」


 バルトは気にしていない様子で、

 「構わぬ。乗せてやってくれ」


 ジャンは慎重にジェニファーをバルトの背中に乗せる。


 ジェニファーは掴まりながら、進みなさい、と命令した。

 「おほほほほ、いい眺めですこと」


 戦士たちは英雄にこんなことさせていいのか、と不安そうに見ている。


 すると、ハナがシャオランを呼んで、

 「わたしもあれやりたい」


 と、シャオランを馬にしたがった。

 

 「何であたしが‥‥」と、シャオランが言いかけたが、バルトがやってるなら自分もやるべきだと四つん這いになった。


 バルトは四つん這いであちこち進みながら聞いてみる。「楽しいかな」


 ジェニファーは満足したのか、「いい気分ですわ」と笑っている。


 分かりにくいが、バルトも満足そうにしている。


 シャオランは戦士たちの前もあり、不服そうに早足になっている。


 ハナは落とされないように必死に掴まっている。


 ジャンたちはそれをハラハラしながら見ていると、シャオランがバルトを抜こうとしてきた。


 すると、それが気に入らなかったのか、ジェニファーがハナを突き落とした。


 それにビスマルクが素早く反応!


 床に落ちる前にキャッチする事が出来て安堵する。


 シャオランが声を荒げる。

 「ジェニファー!」


 老執事が間に入って平謝りしていると、おやつの時間になったらしく、フェリーナが食事スペースに促した。


 だが、シャオランはさすがに堪忍袋の緒が切れている。

 「ジェニファー、あんたはおやつ抜きだ!ここで執事と反省してな!」


 


 育児スペースにジェニファーと執事が下を向いている。

 「ちょっと‥‥やり過ぎましたわね‥‥」


 老執事もオロオロしながらたしなめる。

 「お嬢様‥‥もう少し仲良く出来ませんか‥‥ここを断られたらどうなさるのです‥‥」



 

 食事スペースではおやつの果物を食べやすいように一口サイズにカットされたものが配られていた。


 それが行き渡ると、ハナが果物の皿と空の皿を持って育児スペースに向かっていった。


 「おい、ハナ」


 シャオランが後を追う。その後をバルトや戦士たち、フェリーナもついていく。


 ジェニファーはハナが入ってきたのを見つけると

 「何ですの」と聞いた。


 ハナはジェニファーに空の皿を渡して、その上に果物を分け始めた。


 ジェニファーは驚いてハナを見る。

 「私は‥‥おやつ抜きですのよ‥‥」


 ハナは気にしていない様子で

 「私たちは姉妹でしょ?一緒に食べたいの」


 ジェニファーは目に涙を溜めながら

 「私は‥‥貴方に‥‥意地悪をしたのよ‥‥」


 ハナはジェニファーに笑顔を見せて

 「おやつ一緒に食べてくれたら許してあげる」

 と言った。


 ジェニファーは涙を抑えることが出来ず、

 「許すですって‥‥いじめ甲斐がないわね‥‥」

 と言った。


 これを見ていたフェリーナは号泣、戦士たちもつられて号泣していた。

 バルトもしみじみとしている。

 シャオランは少し反省しているようであった。


 「ハナが一番大人じゃねえかよ‥‥」


 




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