079 無力な自分
アスカはいつもならジャンたちとクエストに行くのだが、エリナの事情を話して、エリナの側にいるようにした。
気分転換に散歩したり、買い物に出掛けて話しかけているとエリナは子供らしい笑顔で楽しんでいた。
アスカもこれまでに積極的にクエストをこなしていたので金銭的に余裕があったので、エリナのために新しい服や靴を買ってあげたりした。
エリナは初めは遠慮していたのだが、沢山の可愛らしい服、アスカからの積極的な薦めで、エリナも受け入れていた。
服が変わると気分も変わるのだが、夜ベッドに入るとエリナの様子はまた変わってしまう。
何日かアスカの家で過ごしていた夜。
アスカとアスカの母から、ママ元気になってきたかなあ、とか早く会いたいね、など励ましの言葉を聞いて楽しみな表情を見せていた。
だがその夜。
アスカと一緒に寝ていたエリナのすすり泣く声が聞こえた。
アスカはエリナに、どうしたの?と尋ねるが、エリナは泣いてないよ、と布団の中で涙を拭っている。
アスカはそっとエリナの顔を隠す布団をめくる。
やはり泣いていたのだ。
アスカは反省した。自分たちはエリナに不安にさせないように振る舞っているつもりだったのだが、まだ六歳の子供なのだ。血の繋がった母親が点滴を受けているような状態で、心配しないはずがない。
アスカはエリナを抱き起こしながら
「ごめんね、我慢させていたのね‥‥泣いていいのよ‥‥」
エリナは寂しさを爆発させるかのように大声で泣き始めた!
アスカを抱きしめる小さな腕や指が強くなるのを感じる。
強い絆で結ばれた親子が今は離れて暮らしている。一日会えない、二日会えない、そんな日が続くと、良くなるための入院だと分かっていても不安が日々募ってしまうのだ。
大丈夫。元気になって戻って来てくれる。
そう言い聞かせながらも、会えない現実に悪い方向に考えてしまう。
本当にママは良くなるのかな‥‥
ママは動くことも辛そうだった‥‥
身体もすごく痩せていた‥‥
悪い状況のママの姿がどうしても思い浮かんでしまう。
エリナは泣き続けて泣き続けて漸く泣き止むと、布団をかぶって眠りについた。
アスカは思う。
寂しさに正直に泣かせてあげるべきだったと。
アスカはエリナを布団越しにポンポンと叩いて自分も休むことにした。
次の日の夜。
エリナが布団の中で呟いた。
「アスカお姉ちゃん。あした家に帰るね」
家に帰ってもエリナの母はまだ戻らないはずだ。家で一人で待つつもりかと思ったがそうではないことが瞬時に分かった。
これは希望の言葉だ。
あしたママが元気になることを願って呟いているのだ。
アスカも呟いた。
「そうね。元気になってるといいね」
だがやはりエリナの母は戻らない。
次の日の夜もエリナは呟く。
「アスカお姉ちゃん。あしたこそ家に帰るね」
「うん。あしたママに会いにいこう」
そんな夜が続いていく。
そして今日もママが帰らない朝を迎える。
それでもエリナは明るく振る舞い、家事を手伝ったりしてくれる。
エリナが寂しさに負けないように、何とかいつものようにしていこうという気持ちが健気でいじらしい。
しかし、頑張ってそうしていても、また寂しさが上回ってくるのだ。
その日の夜。
エリナは目に涙を溜めながら
「アスカお姉ちゃん。あしたなかなか来ないね」と呟いた。
アスカは布団の中でそれを聞いて涙を抑えられなくなった。
自分は魔物を倒す冒険者なのに、魔法使いなのに、この子の寂しさを拭うことも出来ない。
無力な自分を責めずにはいられなかったのであった。




