077 エリナ
魔法使いのアスカが住んでいる家の近所に、六歳になる女の子がいた。
名前はエリナ。父は去年病気のため他界。母は図書館で働いている。
エリナは父が亡くなった時、父が死んだ意味が分からず、母に、いつ父は起きてくるの?と聞いていた。
エリナの中で父は、いつも元気で笑顔で遊んでくれていた。死んでしまうなんて想像も理解も出来なかった。
だが母も根気強く説明を試み、なんとかエリナは父の死を受け入れる事が出来たようだった。
そうなると、もう父に会えないという現実がのし掛かり、寂しさに泣きそうになる。
それが一番激しくなるのは夜、寝る時だ。
父と母に挟まれて寝ていたのに、今は父の場所には誰もいない。
エリナ自身も、泣けば母をまた困らせてしまう、と頑張って泣かないように努力はするのだが、目を閉じれば父の顔が浮かんでくる。
いつの間にか涙を流しながら眠りについている、という事が続いていく。
母は、そんなエリナを責めなかった。母もまた夫を失って秘かに泣いていたからだ。
そんな中、母もまた衰弱のため倒れてしまう。
母は心配させまいと、エリナの前では気丈に振る舞っていたのだが、身体がついてこなくなり、ベッドから起きられなくなってしまった。
「ママ!どこか悪いの?どうしたらいいの?」
エリナはオロオロしながらも何かしないと母も死んでしまうのでは、とパニックになっている。
母は夫の死からあまり食事を受け付けなくなり、ほとんど食べていない状況で働いていたので、いつ倒れてもおかしくなかった。
エリナは意を決して外に出る!
頼れるのはアスカしかいない。
エリナはアスカの家の前に立ち、扉を叩く!
「アスカお姉ちゃん!アスカお姉ちゃん!」
だが、中からは反応がない。アスカも母も出掛けているようだ。
エリナはその場にしゃがみこむ。
「どうしよう‥‥」
午後とはいえまだ日も高い。
エリナはもう少し勇気を出して通りを歩いてみる。
しかし、知ってる者が一人もいない。
子供から大人に話しかけるにはかなりの勇気が必要だ。
近くに強面の冒険者が通りかかる度にエリナはビクッとしてその場を離れてしまう。
家から少し歩くと惣菜などが売っている露店が並ぶ。
エリナはこのあたりまでしか来たことがない。
母はきっとお腹を空かしている。だから動けないんだ。
早く食べ物を与えたいのに、話しかけられず立ちすくむしか出来ない。
そこへ漸くアスカが通りかかる!
エリナは一直線にアスカの元へ走る!
「アスカお姉ちゃん!アスカお姉ちゃん!」
アスカは呼ばれて辺りを見渡す。
人に紛れてなかなか声の主を見つけられない!
エリナは懸命にアスカの名を叫ぶ!
アスカも下手に動かずに近づくのを待っている!
そして遂にエリナがアスカのローブを掴んだ!
「アスカお姉ちゃん!」
「エリナちゃん!?-どうしたの?一人なの?」
「ママが‥‥ママがね、お腹空いてて‥‥動かないの‥‥助けて!」
「分かったわ。ママはお話しは出来てた?」
「ううん‥‥でも力が入らない感じで‥‥起きられないの‥‥」
アスカは少し考える。
これはただ食べ物を与えればいいという話ではなさそうだ。
医者に診てもらって対応した方がいいかもしれない、とエリナを連れて走り出す。




