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076 記憶の中で

 そして、現在に戻る。


 「テトラ、ママと一緒ではないのかい?」


 テトラは少し迷っていたが、やっぱり言おうと顔を上げた。

 「ママと会えないの‥‥わたしは天国でも一人きりだよ」


 オバルは驚いて言葉に詰まる。


 テトラは天国の事情を話す。


 「天国って楽しい場所だと思ってたけど、何もないとこなの。とても広い部屋の中にいて、外にいても何もないから、いつも寝てるの。寝ると夢を見るでしょ?そこでパパやママを見ることが出来るの」


 「では、今はテトラは夢の中にいるのかな?」


 「ううん。時々こっちに来ることが出来るみたい。今までも何度か来てたんだけど、パパを見つけられなかったの」


 「そうだったのか‥‥」

 エイスは今でもテトラを見つけるために彷徨っているのだろうか‥‥


 もしそうならテトラの後を追って天国に行ったことが悔やまれる‥‥


 テトラが毎回こちらに来るための理由を話し出す。

 「わたしね、パパが帰ってくる前に死んじゃったから言えなかったことがあったの」


 「何だい?」


 「でも、それを話しちゃうともうパパとは会えない気がするの」

 

 「では、このまま伝えなければまた会う事が出来るのかな?」


 「それが‥‥分からないの。今日会えたのもたまたまな気がするし‥‥」


 「そうなんだね‥‥私としてはこのままテトラと会える方が嬉しい」


 「わたしもだよ、パパ。‥‥でも、やっぱりダメみたい。死んだら生き返らないでしょ?本当は来ちゃいけないみたい」


 「それは誰が言ってるのかな」


 「分からないの、でもそうみたい」


 

 やはり、生の世界と死後の世界は分かたれているのか、とオバルは考える。


 その時、テトラの腕を掴む手が現れた!

 「ママ!?」


 「やっと見つけた!‥‥良かった‥‥」


 手はエイスのようだ。

 「あなた、時間が掛かってしまったけど、今度こそテトラを守ります。もう会えなくなるので悲しいけれど‥‥」


 エイスが話すには、死後の世界から生の世界に来る事が多くなると、エルフ以外の生き物に変えられる事があるらしい。人間みたいな他の種族ならばいいが、動物や昆虫、最悪は魔物となってしまう。


 オバルは目に涙を溜めながら

 「せめて、君の顔を最後に見たい」

 と言った。


 エイスの顔がテトラの後ろから浮かび上がる。


 オバルは安堵した。

 「ああ‥‥やはり変わってないんだね‥‥愛しているよ」


 しかし、生きている者と死んでいる者の出会いは許されないことなのか、二人の身体に異変が起きる!

 

 テトラとエイスの姿が透け始める!


 「もう行かないとダメみたい。パパ!」


 オバルの目から涙が溢れ出す。


 テトラとエイスの最後の言葉を告げる!

 「パパ!大好き!」

 「あなた!愛してます!」


 その言葉とともに二人はオバルの前から消えてしまった。



 ああ‥‥また君たちは私の前から突然消えてしまうんだね‥‥


 会えると分かっていたなら‥‥


 もっと君たちを愛する言動を伝えたかった‥‥


 もう会えないと分かっていたなら‥‥


 君たちを強く抱きしめてあげたかった‥‥


 

 

 今度こそ‥‥


 もう会えないんだね‥‥


 



 オバルはバルトと二人きりで話す。


 「私はまた記憶の中で二人を思い出しながら生きていくのだね。それにしても私は伝えるのが下手だ。もっと伝えたい事があったのに」

 オバルはそう言いながら酒を呑む。


 「無数の言葉がいいという事もないだろう。貴方の思いは伝わっている。少なくとも私にはそう感じたのだ」

 バルトはそう言いながら酒を呑む。


 「私はこの先千年もの間、最も会いたい人に会えない。エルフという種族は悲しいものですね‥‥」


 バルトはオバルに酒を注ぎながら言った。

 「人間は百年も生きられない。エルフは千年以上も思い出す時間があるのだ。長い時間を掛けて出会う事が出来る。人間では短すぎる」


 オバルはそう言われて考え直す。


 私の記憶の中では二人は元気に笑っている‥‥


 そうか‥‥それでいいんだ‥‥


 エイスとテトラは‥‥


 私の記憶の中で生きているのだから‥‥




 

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