073 苛めの真実と報復
エイスは、夕飯の支度に取り掛かり、テトラに話しかけた。
テトラは満面の笑顔をこちらに向けて話をしてくれる。
エイスは自分に気を使って明るく振る舞うテトラに胸を痛める。
だが、自分もテトラに悟られないように笑顔を返す。
「テトラ、この後一緒にお風呂いこっか。パパもいないし久しぶりに」
「うん」
テトラの身体を洗い流しながら見てみると、やはり背中や腕などに痣がある。
「ねえ、ここどうしたの?痛い?」
エイスが尋ねると何事もない感じで、
「隣の木に移ろうとして落ちちゃった」
とか、
「ウサギがぶつかってきたの」
など、辻褄が合わないことを言ってきた。
言いたくないんだろう、とは思った。
だが、このまま自分に相談してくれないのも困る。
私の事を信用して欲しい!‥‥
テトラを可哀想に思いながらエイスは踏み込んでみる。
「テトラ。怒らないから本当の事、話してくれないかな」
テトラはハッとしてエイスの顔を見る。
エイスの微笑みは、何でも受け止めてくれそうな表情に思えたのか、テトラは身体を震わせながら涙をポロポロ溢していく。
「ホトフくんに‥‥何回も‥‥何回も‥‥」
ホトフに木の枝で背中や腕を何回も叩かれたり、髪を掴んで引っ張られたり、果実をボールのように投げつけられたり、されたことを話し始めた。
「どうして、ママに言わなかったの?」
「言いたくなかったし‥‥心配しちゃうと思って‥‥恥ずかしかった‥‥」
そうだよね‥‥
私もテトラと同じだった‥‥
夫に知られたくなかった‥‥
恥ずかしかった‥‥
自分さえ我慢すればその日を悲しませないで終われるから‥‥
エイスはテトラを優しく抱きしめた。
「ありがとう。よく話してくれたね。辛かったね。悲しかったね。でもこれからはママの事を信用して欲しいな」
テトラはエイスを強く抱きしめた。
エイスは菩薩の顔を見せながらもジニアに対する怒りの炎を燃やしていた。
翌日。
エイスがいつものように山菜を採集していると、ジニアとその取り巻きがのこのこやってきた。
「エイス、さっさとこの土地から‥‥」
と、言い終わる前にエイスがジニアを殴り飛ばした!
取り巻きは苛めに与しているが、何も出来ないことを知っている!
ジニアだ!
ジニアさえしめれば治まる!
ジニアが驚いている間にエイスは連続で殴り掛かった!
「私だけならまだしも、テトラも苛めるなんて!私はあなたを絶対に許さない!」
顔を中心に殴られたジニアも言い返す!
「私にこんなことしたら、旦那は候補から外れるわよ!」
「外れてもいいわ!それに、あなたの旦那が族長になっても結局オバルに頼るんでしょ!」
ジニアは図星を突かれて憤慨するが、取り巻きもオバルの力を知っているだけに分が悪いと思っている。
「今まで私にしてきたこと、テトラにしてきたこと、謝りなさい!」
渾身の力を込めてジニアを殴り飛ばした!
地面に叩きつけられたジニアは口から血を流している!
やり過ぎたとは思わない!
自分の子供を使ってまでテトラを苛めていた事が怒髪天を突く!
握った拳に血管が浮き上がる!
こんな卑劣なエルフがいていいはずがない!
憎くて殺したい気持ちとテトラを命懸けで守りたい気持ちが混ざり、殺意に身体が震えていく!
エイスが、怯えるジニアに全力で襲い掛かる!
ジニアは恐怖で発狂しそうになっている!
「エイス!悪かった!そこまでにして!」
殺意のエイスをジニアの取り巻きが全力で止めた!
それでもエイスは息荒く、目は血走り、襲い掛かろうとしていた!
「ジニア!謝るんだ!殺されるぞ!」
取り巻きがジニアにそう叫ぶ!
「エイス、テトラ、私が悪かった!許して‥‥ひいっ!」
ジニアは泣きながら必死に謝り出した!
取り巻きもエイスを宥める!
「エイス、落ち着いて!テトラちゃんのためにも抑えて!」
エイスはそこで漸く深呼吸をしながら落ち着きを取り戻した。




