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072 苛めの現場

 東の魔物討伐に続いて南の魔物討伐要請を受けたオバルは、エイスにその事を告げた。


 「南の魔物討伐依頼が来た。今度の旅は少し長くなるだろう。テトラの事よろしく頼むよ」


 オバルは優しくそう話しかけてきた。


 それだけで十分愛されている事が伝わる。


 エルフは長寿なだけに元々淡白な種族。浮気するほどの性欲は持ち合わせていないのだ。


 エイスもまた、微笑みながら夫を送り出した。




 

 テトラは好奇心があるほうで、新しい場所を探すのが好きなようだ。


 時々、こんな素敵な場所を見つけた、きのこの群生地を見つけた、とか教えてくれる。


 ただ、気にかかっている事がある。


 ずっと一人で行動しているようで、友達の話がまったく出ないのだ。


 


 せめて仲のいい友人が一人でもいてくれたら‥‥




 その日の山菜採りを無事に終えたエイスは、夕飯の支度に取り掛かろうと家に帰ることにした。



 そうだ。オバルもいないことだし、久しぶりにテトラとお風呂に入ってみようかしら‥‥




 お風呂といっても自然に出来たぬるめの温泉である。こういった温泉は辺り一帯に無数にあり、後のサイハテブルグでもそのまま使用されたり、名残があったりする。



 その帰り道、やめてっ!と言う少女の声が聴こえた!

 「テトラだわ!」


 エイスは急いでその場に向かう。


 見ると、男の子のエルフがテトラの髪を掴んで引っ張っている!


 エイスは、その男の子が誰かすぐに分かった。


 自分を苛めている女性エルフの子供、ホトフだ。


 


 エイスは自分だけではなく、テトラも苛められていたことにショックを受ける。


 ホトフの母、ジニアも子供を産んだという実績で、夫が族長候補の一人になっているのだが、能力的にオバルより遥かに劣る。


 それがコンプレックスとなり、嫉妬に繋がっているのだ。



 助けよう、とすぐに思ったが、エイスは思いとどまる。


 子供のケンカに親が入るのも良くない‥‥


 それにテトラは、私に苛められていたことを知られたくないはず‥‥


 私にずっと隠して、明るく振る舞っていたんだわ‥‥



 エイスは、数分間に渡る苛めの時間を唇を噛みながら堪え忍んだ。


 数分間はエルフにとって刹那であるはずだが、これ程永遠に感じることはないという苦痛に思える!



 やがて、ホトフがテトラを解放する。


 テトラは泣きながら走り去っていった。


 悪者を退治した気分になっているホトフにエイスが素早く近づいた。


 「ホトフ。うちのエイスを苛めてくれたわね‥‥」


 ホトフが振り向くと、怒りの表情で睨み付けるエイスがいた。


 「ひいっ!」

 ホトフは逃げようとしたが、エイスに捕まる。


 「ホトフ、テトラを苛めた理由を言いなさい」


 「そ、それはあ‥‥ママが‥‥」


 「あなたのママが苛めてこいと言ったの?」


 「‥‥はい‥‥」

 ホトフはエイスに殺気を感じながら失禁してしまう。


 「あら‥‥分かったわ。金輪際テトラを苛めないと誓いなさい!破ったら、お漏らししたことをテトラに教えるからね!」


 「あうっ、わ、わかりました‥‥」


 ホトフは泣きながら帰っていく。


 これでテトラが苛められることなないだろう。


 


 あとは、私がジニアに報復する!‥‥




 自分だけならまだ我慢出来たのだが、テトラまで手を出していたのなら、許せない!


 エイスは固く決意する!






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