070 エルフという種族
オバルは女の子に呼び掛ける。
「テトラだね」
『うん。パパ覚えていてくれたのね』
「私はテトラを忘れたことは一度もないよ」
『うふふ。私もパパを忘れたことはないの』
テトラは43歳でこの世を去った。テトラはエルフなので43といっても少女の時だ。
現在オバルは536歳。
ざっと230年ぶりに二人は再会した。
テトラは約230年前に病気に冒され亡くなった。
その頃のこの土地は山脈に続く森がこの辺り以上に広がっており、全体的に森のエルフが管理していた。
エルフという種族は自然を管理するため長寿に進化した種族と言われる。
永久という時間を過ごす自然を相手に理解するにはそれなりの長寿でなければならない。
短命であるほど、自分の事で精一杯になるからだ。
さらにエルフは長寿であるためか、なかなか子宝に恵まれない。
多数のエルフは一生を独身で過ごしている。
そんな中、オバルがエイスという女性のエルフに出逢い恋に落ちる。
二年の受胎期間を終えて産まれてきたのがテトラだった。
家族を持つことが出来たエルフは族長候補に昇格する。
独身エルフが多い中、子供を授かる力は種を残せる偉大な力とされ尊敬の的になる。
オバルは身体能力や魔力も高く、族長候補の中でも若いのでかなり期待されていた。
一方、妻のエイスは嫉妬の対象にされてしまう。
エイスも森育ちなので身体能力は悪くはない。
だが、魔力が少ないのでそこをつけこまれてしまうのだった。
ある日、エイスが山菜採りに出掛けると、それを邪魔するかのようにエイスに向かって風魔法や土魔法が飛んでくる。
「なにするの!」
とエイスも言い返すが、相手は5.6人もいて一方的に不利だ。
「子供を産めたからっていい気になるんじゃないよ!」
「うちも族長候補なんだからね!新参は大人しくしてな!」
など、仕事を妨害されていた。
それからは毎日毎日嫌がらせを受けることになり、エイスも心身的にまいっていた。
だが、夫オバルには相談出来ずにいた。
何となく言い出しにくい。苛められているなんて、とても言えない。
若いにも関わらず次期族長に推されていくオバルの邪魔にはなりたくない。
そんなオバルに余計な心配を掛けさせたくない。
そう思いながら日々の苛めに歯を食いしばって堪え忍ぶのだった。
娘のテトラは順調に育っていた。
とはいえ、三十年は家から外に出ることはめったになく、家の中で森のことを教える事で実際の森をイメージさせていくのだ。
そのイメージ無しにいきなり森に出せば即、死が待ち受けている。
三十年家にいたテトラが森に出る!
父や母から聞かされていた通りの景色が広がっているが、イメージとは違うこともたくさんある。
木々が風に靡いて掠れる音が聴こえる。
大木の幹の逞しさを目にする。
そこから伸びる枝のしなり具合を知る。
野ウサギ、リス、昆虫など生き物が一緒に生きている。
わたしはこの森と一緒に生きていくんだ‥‥
美しく壮大な大自然の真ん中で、テトラは目をキラキラさせながらそう思うのであった。




