068 幽霊の女の子 1
ある日。
七歳のアリスと六歳のジェニファーのケンカが始まった。
この二人は口が達者なこともあり、よくケンカをしていたので、周りのこども達もいつものことか、と慌てる様子はなかった。
「ジェニファー、そのぬいぐるみはルナが遊んでた物やろ。何でいきなり取るんや」
アリスが問い詰める。
「そもそもこれはハナのお気に入りですのよ」
ジェニファーも言い返す。
「今は別ので遊んでたやんか!」
「それなら、この犬のぬいぐるみをお使いなさい」
「ルナ、泣いたやんか!謝って!」
「貴族ですのよ」
「今はジェニファーも平民やろ!」
「あら、やりますの?」
「やったろうやないの」
と、とうとう掴み合いのケンカに発展した!
そこで、大人も入って二人を分けたが、過去にないほどの険悪な空気になってしまった。
ハナは泣いているルナを慰めにいく。
年長のケビンはジェニファーを注意する。
アリスにはロイスが叱っている。
など、アリスもジェニファーも頑固なため、みんなが手を焼いてしまう。
何とか就寝の時間となり、それぞれの部屋に戻る。
『アリスちゃん‥‥』
『アリスちゃん‥‥』
暗い部屋の中で自分を呼び掛ける声がする。
夢とちゃうんかいな‥‥
誰か寂しくて部屋に来たんかな‥‥
アリスはベッドから身を起こしてみると、幼い女の子がベッドの横にいる!
アリスは預かり所のこどもではない事に驚く!
「えっ!だれ?どこの子なん?‥‥」
赤いワンピースを着た白い髪の四歳くらいの女の子がアリスを見ている。
『ここも、いつの間にか賑やかになったんだあ‥‥』
女の子は外の様子を見ながら言うと部屋を歩き回る。
アリスはふと、女の子の長い耳に気づいた。
「あなた、エルフやね」
『そう。結構前からここにいるんだあ』
「幽‥‥霊‥‥てことなん?‥‥」
『そうなの‥‥ずっと前からここにいるの』
「初めまして‥‥のはずやけど、見覚えがあるような」
『それより、アリスちゃん困ってるんでしょ?』
「えっ?」
『わたしに任せて。仲直りしたいよね』
「‥‥うん。でも‥‥」
『大丈夫。ジェニファーちゃんも、ほんとは仲直りしたいみたいだから』
「そうなんか?」
『うん。明日を楽しみにしててね』
そう言って白い髪の女の子は消えてしまった。
続いてジェニファーの部屋に現れた白い髪の女の子はジェニファーに呼び掛ける。
「う‥‥誰ですの?‥‥まだ夜中じゃない‥‥」
『ジェニファーちゃん、またやってしまったのね』
「えっ!」
『アリスちゃんとケンカして‥‥アリスちゃんはそこまでじゃないみたいだけど、あなたは時々ケンカしたくなる厄介な性格なんでしょ』
貴族時代、二人の姉に苛められていた反動で、攻撃的な性格になっている。
ハナのお陰でそれも抑えてはいたのだが、時々本来の性格が表に出てしまい、本人も自覚していた。
その性格に触れられ、ジェニファーは動揺している。
『わたしがその性格、治してあげる』
女の子はそう言ってジェニファーを優しく抱きしめた。
ああ‥‥
あったかい‥‥
この感じ‥‥
ハナ‥‥
隣で寝ているハナを見ながら思う。
ハナが私を変えてくれましたのに‥‥
嫌な思い出を断ち切るために貴族を捨てましたのに‥‥
まだ未練が残っていたんですわ‥‥
あの人たちと同じでいいの?‥‥
ううん‥‥
私は変わる‥‥
変わるんですわ‥‥
翌朝、ジェニファーがアリスに声を掛ける。
「昨日は‥‥ごめんなさい。二度と嫌なことはやらないと約束しますわ‥‥」
アリスは微笑んだ後こう言った。
「そうなんや‥‥まあ、うちも忘れてしもたわ。あはははは」
二人は仲直りした。その後もその場の口論は起きてしまうが、すぐに仲直り出来るようになったという。
ただ、二人は思う。
あの白い髪の赤いワンピースの女の子は誰なんだろう、と。




