061 魔法使いを目指すアスカ
冒険者の中でも魔法使いは、初期費用が他と比べて高いと言われる。
装備品以外に魔導書が必要になるからだ。
基本魔法から中級魔法までが記されており、マスターすれば冒険者のパーティに勧誘されるレベルとなる。
勿論、レベルが上がれば近接の戦士も粗末な装備品では持たないので、相応の高価な装備に変わり、どの職業も同じような金額が必要だ。
なので、自然と魔法使いは裕福な家庭から生まれやすい。
さらに、魔物の近くで戦う戦士と違って、遠距離から魔法を放つので死ぬリスクも低めである。
また、魔物には属性があり、水が火に強いというように弱点属性をつけやすい。
それらを冒険者ギルドに行く前に、都市なら魔法学校、田舎ならベテランや引退した魔法使いに弟子入りして基礎を身につけるのだ。
サイハテブルグにも魔法学校がある。さらに、引退した魔法使いもいる。
色んなタイプの師がいるようで、学校の教師タイプは基礎、ルールを重視していたり、引退した魔法使いは気に入った者しか弟子入りを認めなかったり、自分しか知らない魔法を伝授したくて弟子を多く持ちたがらない者がいたり、と様々である。
ある商人の家族の一人娘が魔法使いを目指していた。
名前はアスカ。12歳の少女だ。魔法学校は13歳から入学出来る。二年間修業した後、冒険者ギルドの扉を叩くことになる。
それまでは魔導書を読むための文字の勉強や自然を知らないと詠唱イメージに影響が出るため、その他常識を学ぶための一般学校に通う。
アスカも、一般学校をあと一年で卒業となり、晴れて魔法学校に通うことになるのだが、アスカの父親が急死してしまう。
商人をしていた父親だが、母親は全くノータッチだったこともあり、会社の権利は仕事仲間に移り、住んでいた家も事務所と兼ねていたので母親とアスカは家も失ってしまった。
さすがに住む家だけは紹介してもらったが、貧しい民が住むようなエリアに移ることになった。
母親のクロエは、急いで就職先を探した。
ほぼ一文無しからの再出発となってしまったが、アスカには今まで通り一般学校を通わせて、魔法学校に行かせてあげたいと考えていた。
だが、父親と違って学のないクロエは雑用的な仕事しか出来ない。
朝から昼までは教会の清掃や庭の手入れを行い、午後から夜中まで酒場の残飯処理や清掃、食器洗いなどをやるようになり、休みもなく働いた。
労働の割には給料はギリギリの生活となる。
人生でこんなに働いたことはないくらい大変な毎日が続いていく。
しかし、可愛い一人娘の夢を叶えてあげたい!
魔法学校を卒業するまでは身を粉にしてでも頑張るとクロエは決めていたのだ。
そんなクロエの唯一の癒しは帰る頃には眠っているアスカの寝顔を見る事であった。
仕事が汚くて辛くて疲れていても、娘の寝顔が全て癒してくれる‥‥
雑用しか出来ないダメなママだけど‥‥
あなたの夢を壊すようなママにはなりたくないから‥‥
アスカは、父親が亡くなり生活レベルが落ちていることに気づいていた。
母親の苦労も理解しており、我が儘や贅沢も言わなくなった。
お弁当も自分で作るようになり、家事はアスカがやるようになっていた。
打ち合わせしたわけではない。自然とお互いの立場を考えて役割分担をしていったのだ。
そして、月日が流れてアスカが一般学校を卒業した。
アスカは特別優秀なわけではなかったが、落ちこぼれてもいない。普通の成績で卒業したのだが、母親のクロエにとっても娘のアスカにとっても他の家庭では味わえない苦労しての卒業だった。
卒業証書を受け取り、アスカは涙を流す。
保護者席で見ていたクロエも号泣していた。
この一年、父親を亡くした二人の生活はひたすら貧しさに勝つための生活だった。
食費も抑えて、新しい衣服も極力買わないように節約した結果の卒業だ。
「アスカ、これ」
クロエは魔法学校に行くための制服、帽子や杖、そして、魔導書を渡した。
「ママ‥‥」
貧しい生活を切り詰めて必死で働いて買えた物ばかりだ。
アスカは泣きながら受けとる。
「ママ‥‥ありがとう‥‥頑張るね‥‥」
一般学校と魔法学校は環境が変わる。
魔法学校入学後、親子の感情にも変化が起きるのを今はまだ分からずに泣きながら卒業を喜び合うのであった。




