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060 冒険者よりも強いママ

 ハワードとロビン、そしてジャンは山の中にある騎士団の設営した野戦病院に入り、手当てを受けた。


 ハワードは腕を骨折。ロビンも足を骨折した他に腕を切っていた。


 ジャンは肩から背中に掛けて傷口が広がっていた。


 ロビンとジャンは傷口を縫わなければならなかったので消毒をするのだが、これが大人でもかなり辛い。


 ロビンも酷く不安な顔をしていたが、ジャンと同じ部屋で行うことがロビンにとって救いになっていた。


 「消毒を始めます」

 医師が、まずロビンを消毒する。


 その間ジャンはロビンに笑顔で話しかけていた。

 「オレはCランクの冒険者でさ、戦士をやってる。戦士は幅広い職業でビスマルクみたいに槍で戦う者もいればウィリアムみたいに斧を使う者もいる。二人は攻撃寄りの戦士だな」


 ロビンは集中して聞いてくれている。


 ジャンはそのまま続けた。

 「オレは片手剣を使うが盾も持っている。魔物から自分と仲間を守るためだ。将来ランクが上がれば騎士になりたいと思っている。ちなみに冒険者はランクで分かれていて、最高はS、最低はFだ。冒険者には15歳以上なら受ける権利が発生する。でも、なるための試験があって、合格点なら晴れてFランク冒険者としてデビューとなるんだ」


 と、話している間にロビンの消毒、縫合まで済んでしまった。


 「あ、終わり?ジャン兄ちゃん、それから?もっと聞きたい」

 ロビンはリクエストしてくる。ジャンの話しに集中して聞いていたからか痛みを感じなかったようだ。


 次はジャンが消毒から縫合まで行う。


 ジャンは笑顔で話しながら消毒と縫合に耐えられるか不安だ。


 ジャンはロビンに戦士として強い姿を見せたいと思っている。


 ジャンは話すことに全集中する!

 「Fランクは、冒険者なりたてだ。この間に冒険者としてのルール、マナーを把握する期間と、‥‥なっ‥‥!」

 消毒が傷口に染みていく!


 ジャンは激痛に耐えながら必死で笑顔で話しかける!

 「るんっ!‥‥!‥‥だっ!」


 ジャンはそのまま気絶して縫合を受けた。




 


 騎士団により、キャロルの火葬が行われた。


 ハワードとロビンの意向で三人の戦士も参加することになった。


 「パパとママはしばらく子供が出来なくてね、ロビンは待望の赤ん坊だったんだよ。毎日毎日ママはお腹のロビンに話しかけていてね‥‥早く会いたいね~、って‥‥早く色んなとこ‥‥行きたいね‥‥って‥‥」


 ハワードはキャロルの思い出を話しながら涙を流す。


 「ママは‥‥料理は得意じゃなかったんだ。でも、ロビンがお腹に来てから一生懸命勉強してね‥‥料理がとても上手になったんだよ‥‥ロビンに、美味しいって言って欲しいからって‥‥」


 ロビンも、キャロルとの思い出がよみがえり、涙を流している。


 「ママは‥‥ママは身体から血がいっぱい出てたのに‥‥ボクを守ってくれたんだ‥‥ママは最期までボクを大事にしてくれたよ‥‥」


 キャロルが火葬され始める。


 棺の周りの火が一気に炎に変わり、キャロルが本当に死んでしまったんだと、現実味が増してくる。


 「ママ!ボクはママの子供で幸せだったよ!冒険者よりも強いママだったよ!うわあぁぁあああ!」


 


 


 火葬が終わり、騎士団に感謝の挨拶をしてハワードとロビンは三人の戦士にも感謝の挨拶をした。


 「改めて助けていただきまして、ロビンを励ましていただいてありがとうございました‥‥この日が‥‥この日が家族を強くしてくれた、と言えるように二人で生きていこうと思います」


 ハワードはそう言って礼をした。


 ロビンも静かに礼をしたが、顔を上げると人が変わったような精悍な表情となっていた。


 三人の戦士は、二人が見えなくなるまで見送る。

 「あの家族は強くなるだろうね」

 ウィリアムが言った。


 「母親の死はやはり辛いだろうが、あの子は乗り越えようとしていたな」

 ビスマルクが言った。


 「オレたちも負けてられないな!」

 ジャンの言葉に二人が突っ込む。


 「消毒で気絶してるようじゃ負けてんだろ」

 

 「それを言うなよ‥‥」


 そう言いながらサイハテブルグまで、あの親子の幸せを祈るのであった。








 

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