006 預かり所始まる
翌週、シュミットがギルドマスターのオバルに、リフォーム完了したことを報告した。
オバルは早速バルトたちを呼び寄せた。
育児スペースはかなり余裕のある広さに加えて、壁の至る所に可愛らしい動物や色んな花が何種類も描かれている。
角には、今はいないが赤ちゃん用の小さなベッドが用意されている。
また、ある一面の壁は真っ白になっていて、子供たちの落書きスペースとなる予定。
バルトは、予想を越えた出来映えにオバルやシュミットたちに感謝を感じていた。
フェリーナとハナは広さは勿論だが、その可愛らしい造りに走り回って喜んでいる。
二人はさらに奥に入る。バルトとオバルもその後ろをついていく。
そこは居住するための共有部分で男女別になったお風呂やトイレがあり、少し広めの洗面スペース、子供の年齢に合わせたテーブル、椅子なども用意されていた。
ここも淡い安心するような色合いに設計されており、母親に抱かれているような安心感がある。
さらに別の部屋にはキッチンスペースと食料の保管場所を作ってもらっていて、これにはフェリーナも満足して、腕がなると喜んでいる。
オバルは二階も見て欲しい、と奥の階段を上り始めた。
二階は一直線の廊下を挟んで両脇にある沢山のドアに三人が驚いた。
「これからまだ増えるだろうが、部屋割りは任せるよ」
とオバルが言う。
取り敢えず部屋を見ていくと、フェリーナとハナが「えっ!」「えっ!」と全ての部屋を見て驚いている。
「オバルさん‥‥これは来客用‥‥ですよ‥‥ね?‥‥」
フェリーナがそう言うとオバルは困惑しながら、
「いえいえ。フェリーナさんたちの部屋ですよ」
「嘘でしょ?!だって‥‥ベッドもある‥‥」
「フェリーナ‥‥」
オバルとバルトは、そうか、と理解できた。
フェリーナは今までまともな部屋を使えなかったのだろう‥‥
そしてそれはハナも同じようだ‥‥
ハナは早速ベッドに跪きながら感触を楽しんでいる‥‥
改めて預かり所を頼んで正解だったとバルトは思った。
「私が使っていいんですか?‥‥ううっ‥‥ありがとうございます‥‥こんな綺麗なベッドでねられるなんて‥‥」
フェリーナはそう言うと号泣した。
落ち着いた頃、四人が下に下りていくと、シャオランたち四人が入ってきた。
「おほっ。これは可愛らしく造ったもんだねえ」
シャオランが見渡しながら言うと、ハナがシャオランの手を握る。
「おや、どうしたんだい」
「絵本読んで」
ハナは何故かシャオランに読んで欲しいらしい。
「何であたしが読むんだよ。バルト、フェリーナ、あんたたちじゃないのかい」
ハナは絵本の棚にグイグイ引っ張る。
「分かった、分かった。強引な子だね、全く」
ジャンたち戦士三人はシャオランを見て、またニヤニヤしている。
食材や調味料などはオバルが定期的に業者に配達してもらうように手配しているようで、既に色々用意されていた。
フェリーナはオバルに感謝して、袖を捲る。
「みんなお待たせ~。ご飯できたから食事スペースに入って。ジャン、ビスマルク、ウィリアム、手伝ってもらえる?」
子供はハナだけなので、背の高い子供用の椅子にハナを座らせた。
料理が並べられていく中、いい匂いに我慢出来なくなったウィリアムが早速食べようとした。
「待ちな!ウィリアム!」
シャオランがたしなめる。
シャオランはウィリアムに叱ったが、ハナも実は食べようとしていたのを見ていた。
シャオランはハナを見ながら話し出す。
「いいかい。人間が生きていくには食べ物が必要なんだ。でも、いつでも食べられることじゃないんだ」
ハナも真剣に聞いている。
「世の中にはお金持ちもいればお金のない貧しい人もいる。毎日食べられるのは有難いことなんだ」
叱られたウィリアムも反省している。
「調理されたお肉は、元は生きていた動物なんだ。でも、あたしらが生きるために命を戴くのさ。感謝しないといけない」
オバルもバルトもシャオランの意外な部分に感心している。
「だから、今日を生かせてもらうために命を戴くことに感謝してから食べないといけないのさ。こうやって手を合わせな」
全員が手を合わせる。
「いただきます」
全員がシャオランの後にいただきますと言った。
「よし。食べていいぞ」
オバルは、食べながら思う。
やはり、シャオランに向いている仕事だと。
こうやってガサツながらも子供たちに、良いこと悪いことを教えていけるのだろう。
食事は申し分ない。フェリーナの味は抜群だ。
そしてバルトはこの預かり所の精神的支柱となるだろう。
オバルはそんなみんなの事を陰ながら支えたいと思うようになっていたのだった。