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058 突然の惨劇

 サイハテブルグから一番近い山は冒険者がクエスト目的で誰かしら訪れている。


 山と行っても一つではなく、幾つか連なった山脈で、その全体はかなり広大である。


 未開の地もあり、そこを開拓することが高ランク冒険者の目標になっていたりする。


 勿論、他にも騎士団の練習場にもなっていたり、一般人のキャンプや登山、または商人たちの通るルートにもなっていて、様々な人々が山に入っている。


 だが、当然人間以外の住処でもある。


 それは動物であったり野鳥であったり魔物である。


 



 今日もそんな山に入る馬車がいた。


 馬車の御者は一家の父親でハワード。


 車には母親のキャロル、息子の五歳になるロビンが乗っていた。


 山の比較的安全な場所でキャンプをしに来たのだ。


 「パパ、ずっとお仕事だったからやっとキャンプに来られて良かったわね、ロビン」

 とキャロルが言った。


 ロビンもそうだが、キャロルが普段から家族でどこかに遊びに行きたくてハワードに愚痴を言っていたようだ。


 ハワードも、仕事に余裕が出来れば行かせてやりたいと思っていたので、今回行くことになり内心ほっとしていた。


 「ママ、山にカブトムシいるかなあ」

 ロビンは昆虫が好きらしく、カブトムシを捕まえたいと思っている。


 「いるわよ、きっと。大きいのいるといいわね」

 

 「うん!」


 ロビンはすでに虫取かごを手にしながらワクワクしている。


 


 キャンプ場までまだ距離がある。


 そこまでの道も、昔から作られた道かのように、凹凸のない綺麗な道路となっている。


 このような道は他にもあり、商人が通るルートも凹凸がない道で、利用する人数が多い程舗装されているようだ。


 「肉もたくさん買ってきたからバーベキュ-も楽しみだな」

 ハワードはロビンに喜んでもらいたくて奮発していた。


 「バーベキュ-は夕方まで待ってよ。お弁当も作ったんだから」

 キャロルもハワードとロビンに喜んでもらいたくて朝早く起きて作ったようだ。


 両親はロビンの笑顔が何よりであった。


 特別裕福でもない普通の家庭である。


 結婚してからロビンが産まれるまで六年掛かったこともあって、可愛くてしょうがない。


 「このまま健康に育ってくれたら、それだけが望みなんだ」

 ハワードはいつもそう言っていた。


 


 空は青く、涼やかな風が吹いている。


 そんな穏やかな道中で異変が起きた!


 馬車の後方で物凄い衝突があり、馬が転倒!


 車も原形が分からない程に破壊されてしまった!


 野生のブラウンベアが肉の匂いにつられて飛び込んできたらしい!


 ハワードは、その衝撃で車輪に腕を挟まれ身動きがとれない!


 ロビンも馬車の砕けた木材に足を挟まれている!


 キャロルは、一番後方にいたこともあり、背中に砕けた木材が突き刺さっている!


 ブラウンベアは馬車の肉を見つけると次から次へ食べ尽くしていく!


 楽しいキャンプの旅が一瞬で惨劇と化してしまった!


 キャロルは自分は助からないと悟り、口から血を流しながらロビンをブラウンベアから隠すように自らの身体で抱きしめた!


 「ロビン‥‥ママはたぶん‥‥無理ね‥‥でも、ロビンだけは‥‥」


 「いやだ‥‥ママ、死なないで‥‥」


 ハワードからは二人の状況が見えない!


 「ロビン!キャロル!‥‥一体何が起こったんだ!‥‥」


 ブラウンベアはまだ肉を食べている!


 キャロルはロビンに話しかける!

 「ロビン‥‥ママは‥‥ロビンが大‥‥好きよ‥‥私達の‥‥ところへ‥‥来て‥‥くれて‥‥ありが‥‥とう‥‥」


 「ママ‥‥しっかりして!‥‥」


 ロビンは泣きながら訴える!


 「あなたに‥‥教えたい‥‥こと‥‥いっぱい‥‥あったのよ‥‥」

 キャロルの抱きしめる力が弱くなってゆく!


 「ママの‥‥分も‥‥ロビンには‥‥生きて‥‥」

 キャロルはそのまま息を引き取った。


 「ママ‥‥そんな‥‥誰か、誰か助けて!‥‥」







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