057 こどもたちの力
ケビンとジュリアが、バルトから紹介されて預かり所のこどもとして、正式に入ることになった。
ケビンは十歳で何度も買い物を頼まれていたので、人には慣れているようだった。
ジュリアの方は外出はほとんど無かったようで、他人に対して免疫が無い様子。
大人に対しては勿論、こども同士でも話しかけられてもうまく反応出来ず、黙り込んでしまう。
そんな時、子猫のミルクがジュリアにすり寄ってきた。
ジュリアは驚いていたが、ミルクの小さな可愛らしい仕草に癒されていく。
「ネコちゃん、可愛い‥‥」
それを見てアリスが羨ましがる。
「ええなあ‥‥未だにうちには懐いてくれへんねんけど」
「ミルクはちゃんと性格のよいこを選ぶんですわ。おほほほ」
とジェニファーが言う。
「そしたら、ジェニファーもあかんやん」
とアリスが言い返した。
気づくとハナがミアを連れてジュリアの側に来て一緒にミルクに触れている。
「ネコちゃん、ネコちゃん」
ジュリアはハナとミアを受け入れて一緒に可愛がっている。
「ジュリアちゃん、わたしのお姉ちゃん」
ハナがジュリアの腕にもたれ掛かる。
ミアもハナの真似をしてジュリアの腕にもたれ掛かった。
「わたしが、お姉ちゃん?幾つなの?」
とジュリアが聞いたので、周りの大人とこどもたちが振り向いた!
「わたしもミアも四歳。わたしはハナ。うふふ」
ハナは新しいお姉ちゃんが出来て本当に嬉しいらしい。
それがきっかけとなり、ジュリアは話すのに抵抗が無くなって、話しかけたら話し返してくれるようになった。
「ハナ‥‥すごいな」
ロイスが舌を巻く。
グリムもジュリアに話しかけてみた。
「ボクはグリム。五歳だよ。ジュリアはお姉ちゃんだね」
「うん。グリムね、よろしくね」
ジュリアが微笑んだ。
「ハナって、たらしの才能があるんだねえ‥‥」
とシャオランが呟くとバルトが訂正した。
「四歳だぞ。それはない。まずはミルクだろう。ミルクは雨の中寂しく歩いていたところをフェリーナに拾われた。こどもたちが手に負えないのを見て、自分がやってみようと思ったんだろう」
「拾われたありがたさをミルクは分かって動いたって事かよ‥‥」
シャオランはミルクを見直した。
代わってマリーがハナを褒める。
「たらしというより、ハナちゃんは新しいお姉ちゃんが出来て純粋に嬉しいのね。ジュリアもそんなハナちゃんの気持ちに気づいたから心を開いてくれたのよ」
一番近くで見てきたケビンは、ジュリアがみんなと笑顔で話しているのを見て涙を流している。
そんなケビンの足を引っ張る子がいる。
三歳のルナだ。
ケビンはしゃがんでルナに、どうしたの、と尋ねた。
ルナはタオルを持っている。
「泣いてたから。はい、これ」
ケビンはハンカチやティッシュが見つけられなかったからタオルを持ってきてくれたんだと気づいて涙が止まらなくなった。
ルナがケビンの背中を優しく撫でて宥めているのも、一層泣けてくる。
こんなに優しい世界があったんだ‥‥
オレとジュリアはここで生きていける!‥‥
ありがたい‥‥
虐待され続けた生活を抜け出す事が出来たんだと真に実感する!
もはや希望しかない!
親が強制してきた運命も無くなって一からやり直せる、やりたいことに真っ直ぐ走れるんだ!
ケビンはようやく涙を拭い、ルナの頭を優しく撫でるのであった。




