055 虐待家族
サイハテブルグの一角に近所で噂になっている仲のいい夫婦がいた。
夫はダン、妻はダリアという。
二人は外では愛想もよく、初めて会う人にも笑顔で挨拶を交わしていた。
あんな夫婦になりたいね、という声も聞こえてくる理想な二人だが、家の中では別人になっていた。
息子のケビンは10歳。娘のジュリアは6歳。
両親は平民の商人だが、取引先に下級貴族がいることもあり、自分たちの生き方が間違いないと思い込んでおり、子供たちに強制していた。
だが、ケビンは生き方は自分で決めたいと、将来は冒険者になることを決めている。
妹のジュリアは大人しい性格で、それほど頭が良くないので親から標的にされていた。
「何故こんな簡単な問題が解けないのだ!我が家は商人だぞ。優秀な者しか必要ない!」
ダンはそう言うとジュリアを殴って虐待していた。
「ケビン、冒険者なんてリスクばっかりじゃないか!いい加減商人としての勉強を始めなっ!」
と、ダリアが言うと、幼い頃は殴られていたケビンも今は言い返すようになった。
「商人といっても小さなエリアを行き交うだけじゃないか!冒険者はどこまでも行ける!世界は無限なんだ!」
だが、所詮は大人と子供。結局殴られて虐待を受けた。
ケビンは本当は冒険者になりたいとは思っていなかった。
親に反発するための言葉として使っているだけで、長年商人になれ、という洗脳から逃れ、正常を保つための方法であった。
自分がまず正常を保てないと大人しい妹は洗脳されてしまう!
ケビンはこの先自分がどうなったとしても、妹だけは救いたかった。
ケビンは知っていた。
両親と貴族の繋がりに黒い噂があることを。
ケビンはジュリアを毎日励ましたり慰めたりしていた。
「ジュリア、オレたちはまだ子供だけど、生きる希望だけは持ち続けるんだ。オレもジュリアも自由に生きていいんだ。必ずジュリアだけでもこの家から出してやるからな」
「お兄ちゃん‥‥外に出てもどこに行けばいいの‥‥」
「騎士団‥‥とか!」
「騎士団は‥‥なんか怖くて行きにくい‥‥」
「そ、そうか‥‥近所の人たちは親の裏の顔を知らないから信じてくれなさそうだしなあ‥‥」
「わたし‥‥頑張ってみる。お兄ちゃんも無茶はしないでね」
「ああ‥‥でも探してみせるよ。きっとオレたちを受け入れてくれる場所があるはずなんだ」
二人は、とにかく苦しいのは今日まで、明日はきっと良いことがある、と言い聞かせ励ましあって毎日を過ごした。
ある日。
ケビンが買い物を任されて外に出た。
ケビンは今日は思いきって遠くの地域に行ってみよう、と決めていた。
だが、地域外には知り合いは誰もいない。
帰りが遅くなれば親から叱られる。
それでも安心出来る場所を見つけなければ希望はない。
中心近くの地域に辿り着いたケビンはこの辺りが公的機関が多いことに気づいた。
町役場の中に孤児を引き取る部所とかないかな‥‥
受付は‥‥
「あの、すいません。例えば‥‥その‥‥」
ケビンは変に遠回しに言おうとして戸惑っている。
「はい、どうしたのかな」
受付は優しく聞いてみる。
「えと、そうだ‥‥戦争とかで親を亡くした子供って、こちらで預かったりしてますか」
受付は変わったことを聞くと思いながら、
「役場にそういった部所はないのよ。まずそういう子供は親戚で預かるわね。もしいなければ‥‥可哀想だけど、一人で生きていくしかなかったの」
と言う。
ケビンは、親戚を思い返す。
「‥‥嫌な親戚しかいない‥‥」
「でも、今はこども預かり所っていうのが冒険者ギルドにあるから、そこに行くんじゃないかな」
と受付が言うとケビンが食いついた!
「こども預かり所!‥‥あるんだ!」
ケビンは受付に礼をして、早速冒険者ギルドに向かって行った。




