054 抉られる気持ち
ジャックの葬儀が行われて、ママ友たちは謎の病を信じるようになっていた。
「ほらあ、病院に通ってたってのは、やっぱり謎の病気だったのよお」
「アンヌさん、辛いでしょうね‥‥」
「呪いとかじゃないでしょうね‥‥」
など、病に対する恐怖と残された家族への同情が広がっていった。
また月日が経った頃。
アンヌが遂にルナを病院に連れて行くようになった。
相変わらず医者は症状が分からない。
何度か病院に連れて行ったある日。
ドマは異変に気づいた。
いつものドッグフードと匂いが違う!‥‥
恐らく睡眠薬が混ぜてある‥‥
だとすると、ルナは今夜狙われる!‥‥
ドマは食べたふりをしてエサをこっそりアンヌが出掛けている間に庭に埋めた。
三歳のルナは、目の前で見た血を吐いて死んでいるジャックの姿を時々思い出すのか、突然涙を流すことがあった。
ドマはその度に慰めるようにルナの側にいた。
ルナも癒されたいのか忘れたいのか抱きついてくる。
心の整理が出来なくて当然だ‥‥
可哀想に‥‥
それにしてもアンヌさんはどうしてしまったんだろう‥‥
何故こんなことになったんだ‥‥
ドマがそう考えているとアンヌの匂いが近づくのに気づいた!
アンヌがルナの部屋のドアを開ける!
アンヌの様子がおかしい!
まるで精神が病んでいるような虚ろな目でルナに呼び掛ける。
「ルナちゃん、お薬飲もうね」
ルナはそんな母に怯えている!
「ママ‥‥こわいよ‥‥」
アンヌがゆっくり近づいてくる!
「ルナちゃん、また倒れちゃったから。お薬飲んだら治るの」
ルナはドマにしがみつく!
「わたし‥‥倒れてないよ‥‥お薬いらない‥‥」
アンヌがルナの手を掴む!
「急に倒れたから分からなかったのよ。あなたは病気なのよ。お薬飲みなさい!」
薬を持つアンヌの手をドマが素早く噛む!
アンヌは、ドマを従順な大人しい犬だと思っていたので、思わぬ攻撃にルナから離れる!
ドマはルナをかばうように守っている!
「悪い犬ね。そこをどきなさい」
ルナはドマの後ろで小さくなる!
「助けて!ドマちゃん!」
アンヌを悪いママだと認識していても、ルナにとって、やはりママである!
手荒なやり方は避けなければならない!
ドマはアンヌに向かって丸くなりながら優しくぶつかった!
アンヌの上に乗った状態で、動けなくした!
ルナがそれを見て部屋を飛び出し、外へ出た!
ドマはそれを見て、アンヌに一撃入れて気絶させた!
ドマも外へ飛び出してルナに追いつくとルナに背中に乗るように身を低くした!
ルナがドマの背中に乗ると、落とさないように静かに走り出す!
ギルド前にはマリーが待っていた。
ルナを乗せたドマがマリーの前で止まる。
マリーはルナを抱き上げる。
「ルナちゃんね。アタシはマリー。あなたの事は知ってるの。怖いこと、悲しいこと、たくさんあったわね‥‥でも、もう大丈夫よ」
ルナは、まだ理解しがたい様子だが、本能的にドマが一番信用出来る、とドマの側にいたがるようだ。
マリーはバルトとオバルに、今回の事を説明した。
「‥‥という事があったわけなの。オバルちゃん、アンヌの事、騎士団に伝えて拘束してもらえるかしら」
「分かりました。ただ、俄に騎士団も信じられない事件でしょうから証明に時間が掛かりそうですね‥‥」
と言って早速オバルは騎士団に連絡を入れた。
「ここからは、井戸端ネットワークで仕入れた情報を込みにした推測になるんだけど‥‥」
とマリーが話し出す。
「そもそもの原因は旦那さんの浮気なの。それをアンヌさんが何かのきっかけで知るんだけど、それを井戸端ネットワークで話したらママ友が同情してくれるじゃなあい?アンヌさんはそれを求めちゃったのね‥‥」
バルトも昔そういう事例が他の町で発生していた事を思い出した。
マリーが続ける。
「どうやって殺害したかは分からないけど、薬を使った毒殺だと思う。で、恨みもあって旦那を殺す。でも、急に倒れて亡くなったことにして、悲しい奥さんを演じたのよ。で、ジャックちゃんの時も同じ。ジャックちゃんの殺害は止めたかったけど、ドマが寝ているうちにやられたみたいなの」
バルトはあり得ない事件ではないと思っている。加害者が被害者を演じて周囲の同情を得たいという精神疾患、症候群の一つだ、と。
「ルナは三歳だったか‥‥その歳で家族がみんな居なくなってしまうとは‥‥しかも母親が犯人というのも心が抉られる気持ちだ‥‥」
バルトは珍しく、ルナに深い同情を示した。
マリーは微笑む。
「バルト‥‥あなたも家族に対して愛し方が分からないって戸惑っていたけど、ちゃんと愛せているわ。ルナちゃんも早く馴染んでくれると信じてる」
マリーの考察は後に正しい事が分かった。
旦那の浮気がきっかけで、アンヌは自分に振り向いて欲しかったが切り出せず、井戸端会議で相談しているうちに同情される事を欲するようになったという。
また、ルナも初めはドマにしか懐かなかったが、今では大人にもこどもたちにも話しかけるようになったようだ。




