052 潜入開始
マリーは、バルトと相談して保育士を少しの間代わって欲しいと伝えた。
そして、ドマを連れて出掛けることにした。
「じゃあ、オレたちもクエストいくかあ」
と、ジャンが言うとシャオランが止めた。
「あんたたちも保育士やってくんない?あたしとバルトだけじゃ厳しいから」
三人の戦士は保育士の大変さを知っているのでクエストに逃げたかったが、何より怖いシャオランに言われたら断れない。
「はい!やります!やります!」
とイヤイヤ引き受けたのだった。
マリーはドマに獣化して犬になるよう言った。
「さて、ドマちゃん。あなたにある家に潜入調査して欲しいのだけど。いいかしら」
「潜入ですか。面白そうですね!」
と犬の姿で言った。
「着いたわ。あの家、奥さんはアンヌ。夫と子供二人のごく普通の家族よ。でも、アンヌが言うには夫が急に倒れるようになったんですって。ただ、医者はどこもおかしくないって言うのよ」
「なるほど。それでボクが潜入して真相を探るという訳ですね」
「そういう事。あら、ちょっと待って。異変かも、隠れてて」
マリーはそう言うとアンヌの家に向かった。
中から悲鳴が聞こえたのだ。
「アンヌ、どうしたの!入るわよ!」
マリーが中に入ると、アンヌの夫が血を吐いて横たわっていた。
「夫の様子がまたおかしくなったと思ったら‥‥血を吐いて倒れたんです‥‥」
アンヌが震えながら言った。
「‥‥死んでるわね‥‥」
マリーは脈を診て震えるアンヌを抱きしめた。
「旦那さんのことは不明で残念だけど、お子さんも怖いと思う。守ってあげてね」
マリーはそう言うと外へ出た。
まさか夫が死ぬなんて思わなかったけど、アンヌの言ったように未知の病なのかしら‥‥
とにかく今日は潜入はよした方がいいわね‥‥
その後アンヌは夫の葬儀もありバタバタしていたが、数日も経つと落ち着いてきたようだ。
夫が亡くなったことにより収入は無くなったが、保険金が入る事が分かり、贅沢をしなければ当面は生活も大丈夫らしい。
二人の子供は五歳の男の子ジャックと三歳の女の子ルナという。
子供たちは未だに突然失った父の死を受け入れられずにいるらしい。
そんな折、マリーはもう一度潜入を試みる事にした。
バルトにも再度ドマが長期で居なくなる事を話し、保育士を頼む。
三人の戦士も再度とばっちりを受ける事になった。
「アンヌさん。いらっしゃる?マリーだけど」
「マリーさん?あら、今日はどうしたんですか」
アンヌは案外元気そうだった。
「アンヌさん。旦那さんが居なくなって、寂しくないかしら。お子さんもきっとぽっかり穴が空いちゃってるんじゃないかしら」
マリーが優しく問いかける。
アンヌは俯きながら子供を気にしている。
「今日はそんなあなたたちにプレゼント。ドマ。いらっしゃい」
獣化したドマがマリーの後ろから現れた。
「犬はね、きっとあなたたちに癒しを与えてくれる。一応当分の間のエサ代も渡しておくわね」
アンヌはマリーの意外な申し出に戸惑っている。
「マリーさん、ありがたいけど‥‥いいのかしら」
「勿論。だって元気になって欲しいもの。ドマは家犬だから一日家の中で大丈夫よ」
「マリーさん、ありがとうございます‥‥子供たちも喜ぶわ‥‥」
こうしてドマを潜入させる事に成功した。
「わあ、可愛い!」
ジャックとルナが自分たちより大きい黒いもふもふに早速メロメロになっている。
このまま何事もなければ一番いい。
だが、夫が亡くなりマリーはさらに疑惑が強くなったという。
この家には何かある‥‥
それにマリーの勘はかなり当たる‥‥
すぐには異変はないかもだけど‥‥
必ず何か起こると思って観察しないとな‥‥




