051 それ、イヤイヤ期よ
オカマのマリーがママ友と井戸端会議をしていた日の事。
「うちの子が最近、抱っこして~って言うから抱っこしてあげるんだけど、すぐに身体を落ちそうなくらいグネ~とさせて嫌がるようになってね。何なんだろ‥‥」
とママ友のサチコが言うと、マリーが腰をクネっとしながら、
「それ、イヤイヤ期よ」
と言った。
聞いていたママ友たちがざわめく。
「イヤイヤ期?‥‥何よ、そんなのあるの‥‥」
ママ友のメルリンが戦く。
「二歳前後のお子さんに現れやすいから『魔の二歳児』と呼ばれているのよ‥‥【SE 女の悲鳴】」
マリーは無駄に怖がらせている。
「でも、どうしたらいいのか‥‥あれもこれもイヤイヤ言われちゃうし」
マリーは赤ちゃんの気持ちを話し出す。
「その頃の赤ちゃんはね、歩けるし走れる。お着替えも出来る。もっと色んな事をやりた~い、って思ってるの。そういう時は手伝っちゃダメ。出来なくても見守ってあげるの」
「さっきみたいに、抱っこしてあげるんだけど、イヤイヤなのは?」
マリーは腕を組む感じから人差し指を自分の口にあててセクシーアピールする。
「困らせたいのよ」
それを聞いてママ友たちは青ざめる。
「手の打ちようがないの?‥‥」
マリーは微笑む。
「考えてみて。出来ることが増えても、まだ二歳なの。甘えたいし、かまって欲しいの。でもね。うまく気持ちを伝えられないの。だからイヤイヤ言ってママを困らせて気を引きたいのよ」
「じゃあ、どうしたらいいの?‥‥」
マリーは、腕を組む感じから手の甲を顎にあててセクシーアピールする。
「共感するのがポイント。お子さんの言動が理不尽でも包容力で寄り添ってあげるの。だって、二歳児ってまだそんなにお話し出来ないのよ~。『ママ』『抱っこ』とか、『おやつ』『欲しい』とか、二単語しか表現出来ないの。根気よく肯定しながら言葉を待つのよ」
ママ友たちは改めて育児の大変さを知る。
マリーはくねくねしながら話し出す。
「気をつけないといけないのは、先回りしてママがやっちゃう事。こどもは自分でやりたいの。我慢出来るかしら?」
「あとね、お絵かきが好きでなかなか止めてくれないんだけど、どうしたらいいの?」
「お絵かき‥‥絵本‥‥ぬいぐるみ。こどもが夢中になってる時は終わるまで待つのよ。途中で中断すると最悪。もっと長くなるから」
とマリーは口を尖らせる。
ママ友たちは溜め息を吐く。
マリーはさらにポイントを伝える。
「『もうちょっと』したら終わるよ、とか言ってない?これダメだから。時計を指差して、この針が12に来たら終わり、とか、指を一本立てながら、おやつは一個だけね、って目で見て分かるルールを決めるの。あとは交換条件とかもいいわ。『おやつ買ってあげるから、帰ろうね』とかね」
ママ友たちはマリーの講義に大分救われたようだった。
そんな時、別のママ友のアンヌが不安気な様子で近づいてきた。
「アンヌじゃない、どうかしたの?」
ママ友のサチコが尋ねた。
アンヌは夫と二人の子供を持つ四人家族。
周りからは、幸せそうないい家族だと思われている。
「最近、夫が家で、急に倒れるようになって‥‥」
とアンヌが青ざめる。
ママ友たちがアンヌを心配して色々尋ねるのをマリーは一歩引いて様子を見ている。
アンヌが言うには、夫が急に倒れるようになったので、医者に診てもらったようだが、何の病気なのか分からないと言われたらしい。
それに最近と言っていたが、マリーがアンヌの夫を昨日見ていて、いつもと変わらず健康そうな様子だったのだ。
マリーは違和感を覚えるが、それが何かは分からずにいた。
まあ、医者が分からないなら、アタシが分からないのは仕方ないわね‥‥
マリーは、今度アンヌの家に行ってみよう、と秘かに画策するのであった。




