048 セシル
ある夫婦が子供に恵まれずに悩んでいた。
夫はクリストフ32歳。妻はジェルメ-ヌ30歳。
結婚して十年になる。
弟夫婦が近所に住んでおり、四歳の子供がいる。
弟夫婦の妻はジネットといい、子供と一緒に遊びにくる。
「やっぱり子供がいるといないとでは大違いよねぇ。幸せ度が違うのよ。家が明るくなるっていうの?」
ジェルメ-ヌは愛想笑いをしながら心の中では傷ついていた。
自分だって産みたい、育てたいと思っている。
ジネットはさらに調子に乗る。
「女としては子供を産んでこそよね」と笑い出す。
ジネットの四歳の娘は、隣の部屋で一人で遊んでいる。
娘はセシルといい、親と違って性格はいい。
大人しい感じだが、ジェルメ-ヌに懐いていて、よく好きと言ってくれる。
そしてジネットは次の子供を宿している。
「あら、お腹を蹴ったわ。きっと男の子ね~」
その後もジネットはジェルメ-ヌに対してマウントを取り続けて帰ろうとした。
ジェルメ-ヌはセシルを呼び止める。
「セシルちゃん、これはおやつのおみやげ。食べ過ぎないようにね」
セシルはパアッと笑顔になり
「ありがとう!大事に食べるね」
と言って喜んだ。
ジネットは早くしなさい、とセシルの手を引いて帰って行った。
夕方になり夫のクリストフが帰ってきた。
「ただいまあ。今日は仕事が早めに終わったんだ」
急いで帰って来たのか少し息を切らしている。
ジェルメ-ヌは笑いながらお茶を出す。
「うふふ。急いで帰って来てもまだ夕食作ってないわよ」
「いいよ、ゆっくりで。ボクは君の顔を見たくて早く帰って来たんだから」
クリストフはジェルメ-ヌを心から愛していて、よく言動で表していた。
ジェルメ-ヌもその一途な思いを受け入れて、そんな夫を愛している。
ジェルメ-ヌは今日弟夫婦のジネットとセシルが来たことを伝えた。
クリストフはジネットの言動に腹を立てる。
「今度また嫌なことを言うようなら、ボクが言い返してやるよ!」
クリストフはジェルメ-ヌを優しく抱きしめた。
「ボクは子供にはこだわっていないんだ。こんなボクと夫婦になってくれて本当に感謝してる。君がいてくれさえすればボクは世界一幸せなんだ」
「クリストフ‥‥私もよ‥‥」
夕食を食べながらジェルメ-ヌが呟く。
「セシルちゃんがうちの子なら良かったのに‥‥」
「ジェルメ-ヌ‥‥」
クリストフも実は同じように思っていた。
セシルはジネットの子と思えないくらい良い子だ。
セシルがうちに来てくれたら我が子のように愛せるのに。
月日が経ち、ジネットに二人目の子供が産まれた。
そこから弟夫婦がおかしくなっていく。
セシルの時は初めてということもあり、赤ちゃんが泣いても必死であやしていたが、弟が新たに産まれてからは赤ちゃんの泣き声が疎ましくなっていた。
「あ~もう、セシル!赤ちゃん何とかしてよ!」
ジネットは、五歳のセシルに弟の世話を任せるようになる。
ジネットの夫は、子供のことは好きでも嫌いでもない様子。
ほぼ無関心で、ジネットがちゃんとやっているだろうと、仕事中心の男だった。
だが、休みの日に異変が爆発する。
セシルが相変わらず弟の世話を任されてあやしていると、ジネットが早く泣き声を止めさせろと喚いていた。
それを聞いた夫がジネットを問いただす。
「ジネット、何故セシルが赤ん坊をみているんだ。子供じゃ無理だろう」
ジネットは、ついいつも通り任せてしまい、しまった、と思ったが
「あの子が自分でやりたいって言ったのよ」
「だからってセシルは五歳だぞ!何かあったらどうするんだ!」
ジネットは渋々セシルから赤ん坊を奪い、あやしてみるが、さらに泣き声が激しくなる!
ジネットはさらにイライラが募る!
夫も、出掛けてくる、と外に出てしまう。
ジネットも赤ん坊をまたセシルに渡して、何とかしなさい、と出掛けていってしまった。
家にはセシルと赤ちゃんだけが残された。




