047 ボクにとって
瞬く間にオークがユリアンに追いついてきた!
オークの鼻息が届く!
ユリアンの頭の中はあり得ないほどの恐怖で満たされている!
必死で逃げるユリアンの顔の右側にオークの右手が伸びる!
ユリアンが何かに躓く!
よろめきながらユリアンは何かに掴まろうとオークの右手を掴む!
同時にユリアンが尻もちをつきながら伸ばした左足にオークが躓いた!
そのままオークは勢いで浮き上がり、ユリアンに投げられた!
オークは大きく弾み腰を痛めた!
そこへ、エリックが間に立ち、オークに向かう!
ユリアンは少し離れて避難する!
エリックはオークを圧倒しながら『逃げろ』と叫ぶ!
ユリアンは、まさか、と思っている。
師匠は、オークが反撃も許さないほど一方的に殴っている‥‥
このまま師匠が勝つ流れじゃないのか‥‥
エリックがオークにトドメの一撃を入れると改めて『早く逃げろ』と叫んでいる!
倒されたオークと入れ替わるように現れたのはふた回りも大きなオークキングであった!
これはダメだ!‥‥
師匠の強さは分からないがAランクパーティが何とか倒せるとか聞いたことがある!‥‥
エリックは敵わないながらも重い拳を放ちながら叫ぶ!
『ユリアン!逃げるんだ!』
ユリアンは、ハッと我に返り走り出した!
なぜオークキングが!‥‥
師匠が死ぬ!‥‥
誰か!‥‥
誰か助けて!‥‥
前も見ないで泣きながら走るユリアンが何かにぶつかった!
人?‥‥
鎧だ‥‥
「オークキングが!‥‥師匠が!‥‥師匠が!」
ユリアンがぶつかった相手はバルトだった!
バルトはユリアンの言葉から状況を読み取り走り出した!
現場に着くと、オークキングがエリックにトドメを撃ち込もうとしていた!
「挑発!」
オークキングの手が止まり、バルトを睨み付ける!
「グレートヒール!」
瀕死のエリックが回復する!
オークキングは既にエリックに興味はない様子でバルトに向かっている!
ユリアンがエリックの元へ駆け寄る!
「師匠!師匠!」
エリックの傷は回復したが疲労で動けないようだ。
「あの方は‥‥」
「分かりません‥‥でもオークキングのことを言ったら来てくれたんです!」
オークキングが大型の片手剣を振り下ろす!
バルトの頭を直撃する!
ガコンっ!という辺りに響く音にも関わらずバルトは何ともないかのように左腰から片手斧ジャガーノートを取り出し、振りかぶる!
そのバルトの悠然とした動きの間にオークキングは重い一撃を何度もバルトに撃ち込んでいる!
バルトがジャガーノートを振り下ろす!
オークキングの左肩に当たり、骨まで砕けてしまった!
「アガッ!ガアガア!」
オークキングが悶絶する!
その様子を見ながらエリックが驚愕する!
「信じられない!‥‥ば、化け物だ!‥‥」
ユリアンも目を丸くしてバルトを見ている!
「何であんな怪力を受けきれるんだ‥‥Aランクパーティがやっと倒せる相手なのに‥‥」
もはや人間離れどころではないバルトの戦闘力に二人は神話の世界を見ているような不思議な感覚を覚える!
気づけばオークキングはバルトのジャガーノートで叩き潰されていた!
バルトが二人の元へ歩み寄る。
「回復魔法は掛けたが、立てそうかな」
エリックは疲労でやはり立てない様子だった。
「貴方は‥‥もしやバルト様‥‥でしょうか」
「いかにも。私をご存じでしたか」
「いえ‥‥その伝説を聞いてご高名は知っておりました‥‥ですが‥‥今、私は伝説を見ました!」
「よしていただきたい‥‥今は引退前のただの騎士ですよ」
それを聞いてエリックは呆然とする。
これが引退前?‥‥
確かに見た目はそうかもしれない‥‥
だが、オークキングの猛攻を完璧に受けきる無敵の防御力‥‥
そして、オークキングの鍛えられた身体を骨まで砕くパワー‥‥
私がこの後どれ程修行したらその域に到達出来るというのか‥‥
エリックはバルトにユリアンの事情を語り始める。
ユリアンは、エリックが自分をバルトに預けるために話していることに気づく!
「師匠!ボクは師匠と一緒にどこまでも行きたい!」
エリックは首を横に振る。
「ダメだ‥‥私ではお前を守ってやれない‥‥」
ユリアンは泣きながらエリックと旅をすると言ってきかない!
エリックはバルトに目で、ユリアンを託した。
バルトもそれに応える。
エリックが礼をして一人、旅に出る。
ユリアンは、また自分は捨てられたのかと涙を止められない。
バルトはユリアンに声を掛ける。
「ユリアン。この地域の魔物は強い。彼も相当な冒険者だが、そなたを守りながら戦うというのは思っているより難しいものなのだ。だが彼はさらに強くなる」
ユリアンにエリックと共に旅をした三年間の思い出がよぎる!
そして旅を通して分かったことがある!
師匠はボクに修行と称して常に集中させていた‥‥
火を点けるのもそうだ‥‥
毎日何かに集中させることで過去を思い出させないようにしていたんだ!‥‥
捨てられた過去を親を忘れさせようと!‥‥
師匠の思惑通り今日まで忘れることが出来ました‥‥
あなたはもうボクにとって‥‥
ユリアンがエリックに思いを叫ぶ!
「父上!三年間、ありがとうございましたっ!」
エリックは、その声に背中を向けながら手を振って応えるのであった。




