046 修行の旅
ユリアンがエリックと旅をして二年が経過した。
ユリアンは七歳になり、エリックと同じように心と身体を鍛える修行を始めていた。
ある日の修行では、ユリアンが目隠しをしてエリックが近づくので防御せよ、というものだった。
ユリアンは集中する!‥‥
正面ではない‥‥
真後ろか‥‥
左‥‥いや右だ!‥‥
ユリアンが右方向に受けて構えると同時にエリックが上から降りて手刀をユリアンの頭にポンと置いた。
「上は無しですよ師匠‥‥」
目隠しを取りながらユリアンが愚痴を言う。
「そんなことでは身を守れないぞ」
エリックは言葉ではそう言っていたが、戦闘に強くなって欲しいとは思っていなかった。
毎日基本的に野宿をするのだが、焚き火役はユリアンがやることになっている。
ユリアンは毎回火を点けるのに苦戦している。火を点けられない限り暖を取ることはできない。
そう言われて一生懸命やるのだが、一向に点けられずにいた。
やり方は古典的な木の板に木の棒を当てながら手のひらで棒を回転させて摩擦熱を起こす方法だ。
さすがに子供では厳しいので、ユリアンが力尽きた頃、エリックが代わりにあっさり点ける。
ユリアンは火を点けられなくて悔しそうだったが、エリックは叱ることはなかった。
贔屓目に見てもユリアンに武術の才はなかった。
なので技術は全くのびないが、体力だけはついてきた。
さらに一年が経過してユリアンは八歳になる。
三年近く旅をしてきて、エリックはユリアンと話す。
「修行をしてきてどうだった」
ユリアンは首を傾げて少し考える。
「う~ん、師匠には申し訳ないですが、自分ではあまり変わった気はしません‥‥」
エリックは微笑みながら話し出す。
「そう。それが武術でもある。技を磨いても力をつけてもなかなか習得感を得られないものなんだが、突然身体が自然と理想的に動く時がある。その時初めて身についたと実感するのだ」
エリックはお茶を飲んでから続ける。
「但し、毎日続けないと少しずつ忘れていく。それを取り返すのに五日は掛かるのだ」
それを聞いてユリアンはさらに毎日励んでいった。
さらに旅は続く。
ある日、ユリアンがその日の焚き火をするための薪を集めていると、ゴルゥゥ‥と獣でもない何か不気味な声が聞こえた。
ユリアンは薪を持っていては逃げられないので、そっと下に置いた。
草木に隠れながら、声の主が去るのをじっと待つことにした。
エリックは少し離れた場所で魚を捕っているはずなので、自分でエリックの元へ行かない限り安全ではない!
わりと近くで自分ではない、草木を揺らす音がした!
異臭がする‥‥
大きな身体‥‥
豚の顔‥‥
まさかオーク!‥‥
逃げないと!‥‥
死ぬ!‥‥
ユリアンは手で鼻と口を押さえて声や音が出ないようにした!
息を殺しながらオークの動きを見守る!
鼓動が速くなる!
一歩一歩遠くなるオークを見ながらユリアンは呼吸を整えていく。
もう、大丈夫‥‥
助かっ‥‥
オーク!?‥‥
もう一体いた!‥‥
見られた!‥‥
ユリアンは振り返らずに一心不乱に逃げる!
道だろうが草木だろうが関係ない!
逃げられればいい!
ユリアンが目の前の二又の木の間をすり抜ける!
オークも行こうとしたが、顔が大きすぎて一瞬引っ掛かる!
だが、二又の木は弾け飛び、再びユリアンを追ってくる!
身体に比べて足が短いオークは足が遅く見えるが、そんなことはない!
オークは脚力が強く、一歩一歩跳ねながら追いかける!




