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045 捨てられた子供

 ある父と子が手を繋いで山に入った。


 この山は低い山で、初心者が登山目的で来るような場所である。


 小さな子供も遠足で来れる山なので父はここで息子とピクニックをしようと訪れた。


 息子の名前はユリアンで五歳になる。


 見晴らしのいい場所に辿り着く。所々に若い家族がシ-トを広げているのが見える。


 ユリアンの父も場所を決めるとシ-トを広げて、お茶にしよう、とユリアンにお茶を渡す。


 二人は周りと比べて異質だった。


 周りの楽しそうな雰囲気に比べて大人しすぎる。


 せめてピクニックなので子供は喜びそうなものだが、父に合わせているのか、一言も喋らない。


 「済まない‥‥ちょっと用を足してくるよ」

 と、父は来た道を戻って行った。


 ユリアンは遠くで遊んでいる同じくらいの子供を見ながらお茶をすする。


 暫く経ったが父は戻らない。


 ユリアンは分かっていた。もう、ここには戻って来ない事を。


 ボクがリュックに多めにおやつを入れても、父は見ないふりをしていた‥‥


 家からここに来るまでほとんどパパは喋らなかった‥‥


 いつからかボクと全然遊んでくれなくなった‥‥


 



 きっとボクは捨てられたんだ‥‥





 何時間待っても父は戻って来なかった。


 ユリアンはそっと横になる。


 

 ボクはママの顔も知らない‥‥


 ママがいなかったから、きっとパパはママのこともしなきゃいけなくて疲れちゃったんだ‥‥


 


 ユリアンはいつの間にか涙を流して眠っていたようだ。


 ふと、起きてみると隣に男が座っていた。

 「うわあ、だ、だれ?」


 三十歳くらいだろうか。髪の毛はない。修行僧のような出で立ちである。


 「私はエリックと申す。冒険者でモンクを職業にしている」


 「モンク?‥‥」


 「修行僧のことだ。武術を通して心と身体を鍛えるんだ。いや、私のことよりそなたは一人なのか?」


 「うん‥‥パパとここに来たんだけど‥‥捨てられたみたい‥‥」


 だから、子供一人で眠っていたのか‥‥


 だが、この子は捨てられた事を受け入れているように見える‥‥


 「父を探そうとは思わないのか」


 「うん。また一緒に暮らすと、パパがまた疲れちゃうと思う」


 「母はどうしてる」


 「ママは気づいたらいなかったから、分からない」


 

 母はこの子を産んで間もなく亡くなったか、訳あって離れてしまった‥‥


 残された父は自分の仕事と母の役目をせねばならず限界がきた、というところだろう‥‥


 それにこの子も尋常ではない‥‥


 普通捨てられたと分かれば、もっと慌てて親を探し回ったり、泣きわめくのではないか‥‥


 この子は、いつかこうなる事が分かっていたかのような落ち着きぶりだ‥‥


 きっと‥‥


 あまり愛されずに育てられたのだな‥‥


 それでもこの子は父の気持ちを優先しているようだ‥‥




 「これは父のリュックか。中を見てもいいだろうか」


 ユリアンが頷くと、エリックは中を確かめた。


 中には弁当箱が二つ入っていただけである。


 弁当箱を開けるとサンドウィッチが詰められていた。異臭はしない。十分食べられそうだ。


 「お腹が空いただろう。食べようか」

 エリックはユリアンにサンドウィッチを渡して一緒に食べる。


 この弁当も、料理が得意ではないため簡単に作れるものにしたのかもしれない‥‥


 この子は父の最後の料理だからか少しずつゆっくり食べている‥‥

 

 健気‥‥不憫‥‥そんな言葉が浮かぶ‥‥


 だが、物を食べるということは生きる意思がこの子にはある!‥‥


 「私と共に旅をしないか」


 ユリアンはこの言葉に、実の親よりも信頼できる温かさを感じた。


 エリックがこの場にいなければ、父の作ったサンドウィッチにも手をつけずに眠りながら天国に行くことしか考えなかっただろう。


 「うん」

 ユリアンは、生まれて初めて自分のことを気にかけてもらえる人に出会えた気がした。






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