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042 守って欲しいこと

 三人の戦士とウメの旅は振動を抑えるため、ゆっくりめに帰ることとなった。


 季節的にも昼も夜も過ごしやすいのもあって、野宿する時もそれほど苦ではなかった。


 行き先にはほぼほぼ道の駅があるのも快適な旅に繋がっていた。


 そんな中、山を越える時の見下ろした絶景を見たり、通過する森が神秘的な雰囲気だったりして、ウメにとっては異国の物語に入り込んだような体験の連続だった。


 「ふふふ。長生きはするものね。こんなに素敵な景色が世界には溢れていたなんて‥‥」


 


 勿論、快適ばかりではない。


 魔物も長い旅のうちに何度か遭遇した。


 だが、ビスマルクの槍、ウィリアムの斧で攻撃し、ジャンの盾でウメを守りきる。


 ウメは恐ろしい魔物が迫ってきても、三人の戦士を無条件で信用しており、恐怖心はさほどなかった。


 何より、三人のチームワークが熟練しており、流れるような剣捌き、連携攻撃などを見ていると、そういう剣劇を鑑賞しているような錯覚を感じる。


 「ウメさん、ケガはないかい?」

 ジャンが戦い終えて尋ねると、ウメは笑い出す。

 「ふふふ。ワタシはしっかり守られてましたよ。それよりあなたたち凄いわね。ワタシもあんな風にやっつけてみたいわあ。また魔物、来ないかしら」


 「やめてくれよウメさん‥‥」

 三人はたじたじになっていたが、そんなやりとりを楽しく思っている。


 

 やがて、サイハテブルグの大きな壁が目の前に広がるのが見えてきた。

 

 「あれがサイハテブルグなのね‥‥一生キリリ村から出ることはないと思っていたけど、こんなに大きな町に来るなんて‥‥」


 町に入ると、その賑やかさに一層目を丸くする。


 「まあまあ!人がいっぱい!色んなお店もあるのねえ。高い建物ばっかり!」

 

 ウメはジャンたちに促されて冒険者ギルドを通り、こども預かり所に入った。


 ウメの目の前に可愛らしい大きな部屋、そしてバルトを始めとした保育士たちと子供たちが見える!


 かつてのキリリ村の大家族だった頃と重なりあう!


 「今日から一緒に住むことになったウメさんだよ。みんなよろしくな」

 と、ジャンが紹介した。


 



 ウメは八十歳のおばあちゃんなので、預かり所の中で飛び抜けて年上になる。


 それが子供たちには寧ろ新鮮で、しかもウメの小柄で可愛らしく柔和な雰囲気が引き寄せる魅力となって、その日のうちに打ち解けていく。


 何より、ウメは折り紙やあや取りが上手で、教えて教えてと、子供に大人気になる。


 また、絵本を読むのも上手く、それまでシャオランかマリーが読んでいたが、ウメが一番人気に変わった。


 また、裁縫も得意なので、破れた服も綺麗な仕上がりで大人たちの方が驚いていた。


 



 夕食。


 食事スペースにみんなが集まり、改めてウメが紹介され、一緒に食事を楽しんだ。


 「ウメさん、いかがでしょうか?お口に合いましたか?」

 フェリーナとイリスが心配して尋ねる。


 「ええ、とても美味しかったわあ。あなたたちセンス抜群ね」


 ウメに褒められて二人がハイタッチで喜ぶ。


 バルトがウメに一つ尋ねますと、畏まる。

 「ウメさん。住む場所が変わって、環境も全く違う生活になりますがご要望がありましたら教えていただきたい」


 するとウメは少し悩んだ後、話し始めた。

 「お気遣いありがとうございます。けど‥‥ワタシには勿体ないくらい、いい人たちばっかりでほっとしましたよ。ただ、一つだけ必ず守って欲しいことがあります‥‥」


 何だろう、とみんなの注目が集まる。


 「キリリ村のワタシの大家族はみんな、ワタシより先に死んじゃったの。もう見送るのはたくさん!‥‥だから、あなたたちにはワタシより先に天国にいかないで欲しいわ」


 「分かりました。約束しましょう」

 

 「オレたちも約束するよ」


 「わたしも守る~」


 普通ならダントツで年上のウメが一番先に天国にいくわけだが、キリリ村ではそうならなかった。


 自分より若い者を見送る辛さをウメが最も知っているのだ。


 ウメはこの場所で生き甲斐を見つけ、血色も良くなっている。


 さらにジャンたちとの初めての大冒険で、気持ちが若返っているのだ。


 ウメは悪戯っぽく付け加えた。

 「ふふふ。ワタシも長生きする気満々よ~。ここにいる赤ちゃんが結婚して子供を作るまでは、おばあちゃん、生きるつもりだからね!」






 

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