035 お誕生日大作戦
公園のお城はそれから時折行くようになり、二人にとって特別な場所となっていた。
そんなミアが四才になった頃。
パウラの働く飲食店の店長が変わることになった。
それまでの店長は、年齢的に引退することとなり、その息子が引き継いだ。
その息子店長はパウラに一度言い寄ったことがあり、その時にパウラは毎日の生活が必死だったこともあり、断ってしまう。
その当時は息子も気にしていない様子だったので、その後もパウラは店で働いていたのだが、店長となり、牙を剥き始めた。
「なんだ、まだ食器洗い終わってないのか!ちんたらしてんじゃねえよ!」
「掃除も早くしろ!テーブル汚れたままじゃねえか!」
と、毎日のように怒鳴られてしまう。
前の店長の時は何も言われなかったのに、急な環境の変化にストレスが溜まりだす。
その頃から公園にも行かなくなり、まっすぐ家に帰るとミアに文句を言うようになる。
ミアはパウラに遊んで欲しかったが、
「疲れてるの!一人で遊べるでしょ!」
と、相手にしなくなる。
それでもミアにとってはたった一人の母親だ。
お仕事で大変なんだろうな、と疲れて眠ってしまったパウラにふとんをかける。
それからパウラは家に帰るとミアを相手に暴言を吐くようになる。
「毎日ママは頑張ってるでしょ!ミアも部屋の片付けくらいしなさい!」
「ごはんこぼれてる!汚いでしょ!」
ミアは、あれほど優しかったママが急に自分を叱るようになるが、ママの大変さも分かるので、叱られないように大人しく、散らかさないようにするようになった。
そんなある日。
ミアが、今日はママのお誕生日だ、と思い出す。
でもお金もないし、料理も出来ない。
ミアはダメ元で近所のお菓子屋さんに足を運んでみた。
お菓子屋の主人はミアから事情を聞いて、
「そうか‥‥ミアちゃんは、昔の優しいママに戻って欲しくてお誕生日をお祝いしたいのか‥‥パウラさんも大変そうだったもんなあ。分かった!特別にケーキを作ろうじゃないか!」
「ほんとう!?」
ミアはワクワクして、主人の作るケーキを店の中で待っていた。
そこへ、ハナとシャオランが店の中に入ってきた。
シャオランはハナと同い年くらいの子が一人で買い物に来てることに驚いている。
「ねえ、一人で買い物に来たのかい?」
「ううん、買い物ではないんだけど‥‥」
ミアは恥ずかしそうに経緯を話した。
「ママ怖くなっちゃったの?」
ハナが心配してそう言った。
「うん‥‥でも、今日はママのお誕生日だからお祝いするの。ママね、前はとっても優しかったの。ケーキ食べて、また優しくなって欲しいな」
ミアは、きっと上手くいくと思って微笑んでいる。
ハナもそんなミアを応援している。
だが、シャオランは不安に駆られる。毎日のようにミアに八つ当たりしている母親がお誕生日だからと、ケーキを食べたからと優しく戻るだろうか、と。
「お待たせ!ミアちゃん、持てるかな」
主人は重たいなら一緒に家まで持っていくと言ったが、ミアは断った。
「大丈夫かなあ‥‥」
主人は不安そうにケーキを持つミアを見る。
シャオランも待たせている子供が多い。お菓子は子供たちが楽しみにしているので、買い物を早く済ませてすぐ帰るつもりだった。
「まあ、ミアちゃんの家は近いから、大丈夫でしょう」
との主人の言葉を信用してシャオランとハナも預かり所に戻ることにした。
お菓子をフェリーナに預けると、やはり心配なのか、シャオランはミアを探すことにした。
シャオランはミアの家を知らないが、お菓子屋の主人なら知ってそうだろうと、お菓子屋に向かう。
主人は案の定ミアの家を知っていた。
シャオランは教えてもらった道をたどり、ミアの家に着いた。
「ミア、ミア、中にいないのかい?」
ドアには鍵が掛かったままで、中には誰もいないようだ。
「まさか、まだ外にいるのかあ?」
辺りが暗くなってくる。
シャオランはお菓子屋とミアの家の間を注意深く探してみることにした。




