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034 小さな味方

 サイハテブルグの公園に、最近作られたらしい可愛らしい家が人気となっている。


 その公園はそれまで広い草原にベンチがいくつかあり、四阿がある程度でほぼ何もなかった。


 その可愛らしい家は、お城を子供用にしたもので、装飾などもされている。


 中に入ると、子供が六人くらい座れるようになっており、主に女の子がままごとをするためのスペースとなっている。


 男の子は城の外にある小さな階段を上ると、滑り台があるので、それを使って下におりて遊べる。


 


 昼間、その城で沢山の子供たちが遊ぶのを羨ましそうに通りすぎる親子がいた。


 三才の娘、ミアは母に手を引かれながら城をじっと見ている。


 「ミア、今は他の子が遊んでるから我慢しようね」

 母のパウラはそう言って少し離れた四阿に促した。


 パウラは、ミアを他の子と遊ばせることに抵抗があった。


 パウラが幼い頃、父を亡くしており、母が一人で育ててくれたのだが、近所の子供たちに父親がいないことで苛められる事がよくあった。


 生活も貧しく、人並み以下の暮らしをしていた。

 親子ともにいつも同じ服を着ており、一日三食どころか、何も食べられない日もあった。


 それでも薄給ながらも必死に働いてパウラを育てた母は娘だけでも何か食べさせてあげないと、と飲食店を回り、無料でパンの残りを恵んでもらうとパウラにあげて、自分は水で我慢するのだった。


 パウラが16才になった時に、無理が祟って母が亡くなった。


 パウラは生きるために仕事を探した。


 飲食店の皿洗いと店の掃除を任されることになり、二十歳頃、客だった冒険者と偶然付き合うことになり、子供を授かるが、男の方はそれで冷めてしまいどこかへ逃げてしまった。


 しかし、パウラはせっかく私のところに来てくれたから、と産むことにした。


 産まれた子にミアと名付け、とても可愛がった。


 「世界で一番可愛い私のミア!私がミアをちゃんと育ててあげるからね」


 パウラは女手一つでミアを懸命に育てていった。


 だが、自分の母と同じように必死に働いても薄給なので贅沢な事は何一つ出来ない。


 幼い頃の時のように、ミアにも同じ服をいつも着させている日々が続く。


 


 時間が過ぎていき、辺りが暗くなってきていた。


 周りにいた沢山の子供たちは既に家に帰ってしまい、公園にはパウラとミアだけになっていた。


 「ミア。お城に行こっか」


 「うん!」


 ミアは行ってみたかったお城に入れると思うと、小さな身体をぴょんぴょんさせてうれしそうにしている。


 パウラはそんなミアを見ながら愛らしいと思うと同時に貧しくてごめんね、父親がいなくてごめんねと心の中で謝るのだった。


 城の中は夢の世界のような装飾をされていてミアのテンションもあがっている。

 

 「ママ、ほら見てぇ。ここに王子様いるよ!」


 「ほんとね~」


 「あ、ママ!こっちにお姫さまいるぅ!」


 「ほんとだぁ」


 よく見てみると、城の中の絵は一週回ると物語になっているようだ。


 恐らく、昼間のように子供たちが密集していると、その意図は分からないだろう。


 パウラはミアに、絵を元にした想像の物語を話してみる。


 ミアは大きな絵本の中に入り込んだように、目をキラキラさせて聞いている。


 「‥‥王子様はドラゴンを倒すとお城に戻り、お姫さまといつまでも幸せになりました‥‥とさ。おしまい」


 「ママ!おもしろかったぁ!」


 ミアが満足したようにパウラに抱きついた。


 パウラもミアを抱き寄せながら頬擦りする。


 「ミア‥‥本当は他の小さなお友達と遊びたいよね‥‥」


 「ううん‥‥いじわるされるし、ママといっしょがいい‥‥」


 パウラは涙が溢れる。


 どうしてうちは貧しいんだろう‥‥


 もっとミアを幸せにしてあげたいのに‥‥


 働いても 働いても良くならない‥‥


 お腹もすかせてミアも我慢してるよね‥‥


 ごめんね‥‥


 ダメなお母さんでごめんね‥‥



 「ママ‥‥」


 「お腹すいたの?」


 「ううん‥‥ミアはママ頑張ってるとおもう‥‥だから泣かないで‥‥」


 パウラはミアを優しく抱きしめる。

 「ありがとう‥‥ミア」


 ずっと一人で戦っていた気でいたけど‥‥


 私にはこんなに可愛い小さな味方がいたのね‥‥


 パウラは涙が止まらなくなるが、その顔は幸せ以外の何物でもなかった。






 

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