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033 余命を伸ばすための約束

 四ヶ月が過ぎる。


 ピエールは椅子から離れて立ち上がるようになった。


 勿論、数秒にも満たない程度で座り込んでしまう。


 医者もこれには驚きを隠せない。前述したように、医者はこの病気を治せないが、症状は知ることが出来る。


 回復魔法がある世界とはいえ、医者も進歩しようと日々勉強を繰り返している。


 ゆくゆくは魔法が使えなくてもあらゆる病気を治せる存在になりたいのだ。


 そんな医者が目の前で奇跡を見ている。

 「今の技術では医者は勿論、聖職者もこの病気は治せない。ましてや、余命を伸ばすという奇跡はまさしく神にしか出来ない。『憧れの人に会いたい』この一念だけが、この奇跡を生んでいます」


 医者がシモンとアメリアに説明した。


 本来なら既に天に召されていたはずのピエール。


 ガンの影響で足も不自由になっていたピエールが僅かだが立ち上がるまでになった。


 まさか‥‥


 バルト様は余命を伸ばすために‥‥


 半年後という約束をしたというのか‥‥



 現実にピエールは不可能を可能にしている!


 


 五ヶ月が経過した。


 遂にピエールが震える足で数歩歩いてみせた!


 シモンもアメリアも病魔に打ち勝とうとするピエールの姿に勇気を感じる。


 だが、その間もピエールには絶えず死神が囁きかけていた。


 『いい加減に来い!』


 『本当は死んでいるのだ!』


 『頑張るだけ無駄なのだ!』


 ピエールは、そんな死神の声も聴こえないくらい集中する事で精神を保っていた。


 


 そして、約束の一週間前。


 ピエールはサポートされて馬に乗る。


 シモンは馬車を提案したが、ピエールは会う直前まで乗馬する事で足を苛めて鍛えることを選んだ。

 代わりに馬車にはシモンとアメリアと医者が乗ることになった。


 しかし、ピエールは足を鍛えてはいたが、体調は悪くなっている。


 呼吸も苦しそうにしている。


 気合いで隠してはいるが、身体中も痛みが走っている。


 そのような状況でピエールと両親、医者はサイハテブルグへ旅立った。


 




 約束の日。


 バルトはサイハテブルグの外で一行を待っていた。


 やがて、ピエール一行がやってくる。


 満身創痍のピエールが馬から下りるのをシモンがサポートする。


 「お初にお目にかかります。ピエールです」


 「バルトです。よく参られた」


 ピエールの呼吸が荒くなる。


 死神の声が騒がしくなっている。


 全身に激痛が走る。


 もはや死期は迫りつつあった!


 ピエールが直立して、盾を装備した左腕を胸の前で構える!


 憧れていた騎士の礼である。


 バルトも同じ礼で応える。


 ピエールが吐血する!


 そしてそのままうつ伏せに倒れ、ピエールは息を引き取った。


 シモンとアメリアはバルトに涙を流しながら深くお辞儀をしている。


 バルトはピエールを両腕で抱き上げると、馬車の中へそっと寝かせた。


 「ピエール殿。立派な最期であった。この若さで己に打ち勝ち、この地まで参られた執念、忍耐、根性を見せてもらった。騎士にとっていずれも必要な要素である。そなたはまさしく騎士となられたのだ」


 シモンはバルトを騎士として、改めて尊敬する。厳格な中に勇気を与え、不可能を可能にする人格を讃え、地元への馬車を走らせるのであった。






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