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031 治せない病

 ある日。


 サイハテブルグの町をバルトが歩いていると、一人の冒険者風の男に声を掛けられた。

 「あの、人違いでしたらすいませんが、貴方はバルト様ではないですか」


 「いかにも私はバルトと申します。何かご用件でも」


 「ああ‥‥やっとお逢い出来た‥‥ここではなんですからあちらの四阿へ参りましょう」


 と、男は少し先に見える四阿を指差した。


 この辺りは町の中に草原を作って公園にしている場所だ。休めるようにベンチや雨よけに四阿も設置している。


 二人が腰掛けると男は話し始めた。


 「私は冒険者で、シモンと申します。貴方と同じく騎士をしております。私と息子は貴方の大ファンなのです」


 バルトが意外に思っているとシモンは続けて話す。

 「勿論、派手なアタッカーの有名人も人気は凄いですが、騎士を志す者にとってはバルト様の名を挙げない者はおりませんよ」


 自分の知らないところで、そんな扱いをされていることにバルトは少し照れてしまう。


 「私は、バルト様を探して旅をしておりました。しかしながら、一年前辺りからバルト様の噂や活躍がパッタリと聞こえなくなりまして、焦っていたのです」

 

 「焦る‥‥何か急ぎでしたか」


 シモンは少し俯いてから、顔を上げる。

 「私の息子のピエールも、私の影響で騎士を目指しております。まあ、私がバルト様の偉大さを熱弁していたからなのですが‥‥伝説のルビードラゴン討伐やアンデッド殲滅作戦、他にも‥‥」


 「まあ私の事より息子さんがどうされたのだ」


 「あっ、ええ‥‥ピエールはバルト様に憧れておりまして、一目お逢いしていただきたいのですが‥‥昨年からピエールは不治の病に掛かりました。それでもピエールは騎士になりたいと、剣を振り盾を構えて練習を欠かしません」


 「ふむ‥‥」

 

 シモンが涙を浮かべる。

 「ですが、とうとう自分の足では立てなくなりました‥‥今はそれでも椅子に座りながら剣を持っております。医者の見立てでは、余命はもう二ヶ月しかありません。綺麗だった髪も抜け落ち、身体も痩せております。最後にバルト様と逢わせたいのです!‥‥」


 バルトはこの申し出に悩む。

 

 症状を聞く限り、ピエールは恐らくガンだろう‥‥


 私の浄化は万能ではない‥‥


 ガンは治せないだろう‥‥


 バルトは冷酷な決断をする!


 「残念ですが、私はこの地を離れるわけにはいきません。ですが、どうしても私と逢いたいのであれば半年後、予定を空けましょう」


 シモンはそれを聞いてガッカリする!


 「余命二ヶ月なんです!半年後なんて‥‥」


 「済まない‥‥私も手が離せなくてな」


 シモンは立ち上がりバルトに背を向ける。

 「バルト様‥‥たしかに私の勝手な申し出でしたが‥‥もっと血の通った方だと思っていました‥‥でも‥‥」


 シモンはピエールに申し訳なく涙を流す。

 「見損ないましたよ!」


 と走り去ってしまった。


 バルトは走り去ったシモンにお詫びの礼をとる。


 


 

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