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029 初めての居場所

 イリスとグリムは早速冒険者ギルドに入る。


 中にはクエストを吟味する冒険者でいっぱいだった。


 グリムはそんな状況に圧倒されながらイリスについていく。


 イリスはギルドマスターに取り次ぎ、自らの事情を話した。


 ギルドマスターのオバルは、

 「それならば、すぐそこの扉の先がこども預かり所です。イリスさんも一緒に保育士として入ると良いでしょう」


 二人が預かり所の中に入り、オバルから紹介される。みんなもいたが、前の町で奇妙な出来事が続いたこともあり、先ずはバルトが対応して詳しい身の上を聞くことにした。


 別室に通されたイリスとグリムは促されて椅子に腰を掛ける。


 オバルとバルトがお茶を出してイリスから話を聞いた。


 「‥‥という訳で前の町ではいられなくなりまして。でも、グリムは普通の子なのです」

 イリスが言うと、再び胸を押さえて苦しみだした。

 「イリス!お薬飲んだのにどうして!」

 グリムが慌てる!


 オバルとバルトも俄にざわめく。


 イリスは正直に話してみる。

 「実は‥‥つい、四時間ほど前から心臓が鷲掴みされるような痛みが出まして‥‥でも‥‥それまでは病気もしたことがないのです‥‥」


 バルトは久しぶりだがやってみよう、と詠唱を始める。

 「浄化!」


 普通はアンデッドに対して、成仏させるための魔法だが、身体の悪い部分を浄化することも出来るという。


 浄化を受けたイリスは、直ぐに痛みが無くなり、本人も驚いている!


 バルトが話し出す。

 「私は騎士の中でも聖職者の魔法が使える聖騎士でしてな。神の加護で大抵の病気を無くすことが出来るのです」


 イリスはそれを聞いてグリムに向き直る。

 「良かった‥‥約束を果たしたわ!言ったでしょ、私は死なないって!」


 グリムもその事を喜ぶが、思い切ってバルトにお願いする。



 「イリスは、ボクを普通の子って思ってくれてるけど、ボクは不安なんだ‥‥ボクが預かり所に入ることで誰かが不幸になるかもしれない!ボクと関わる人がそんな目に遭って欲しくないんだ!」


 

 イリスはそれを聞いてグリムを抱きしめる。

 「御者のおじさんも私もグリムといたけど死ななかった!それじゃダメなの?」


 グリムはイリスから離れて言った。

 「それも偶然かもしれない。ボクの中に悪魔がいるなら出ていってほしい!呪われているなら、解いて欲しいんだ!」


 バルトは分かった、と詠唱を始める。

 「この魔法は悪魔のように取り憑くものを払う魔法だ。『アンチカ-ス!』」


 グリムの身体を神々しい光が包む!


 やがて、光は淡くなり周りに溶け込むように消えていく。


 「ふむ‥‥」

 バルトが険しい顔になる。オバルが、どうだったと尋ねると、

 

 「手応えがない‥‥」

 と、バルトが言った。


 「あの‥‥それはどういう‥‥」

 イリスが心配して尋ねる。


 バルトはグリムの頭を優しく撫でながら、

 「初めから何も取り憑いたり呪われてはいない。つまり普通の子だ」


 イリスがグリムを改めて抱き締めた!

 「グリム!ああ、良かった‥‥やっぱりグリムは悪魔の子なんかじゃなかった!」

 

 「ホントに‥‥ホントにボクは‥‥悪魔じゃないんだね‥‥」


 グリムも自分がどうなのかハッキリして安心するのと同時に、こんな自分を辛抱強く信じて守ってくれたイリスに感謝して大粒の涙を流す。


 「イリスがボクを生かしてくれた‥‥ボクはここにいていいんだ‥‥」


 「勿論だ。さあ、二人とも、今日から私たちは家族だ。みんなに紹介しよう」

 と、育児スペースに案内した。


 「ようこそ、こども預かり所へ」

 育児スペースにみんなが集まっている。


 グリムは五歳になったばかりなので、赤ちゃんを除けばハナの次に若いので、可愛い可愛いと子供たちに囲まれた。


 「えっと‥‥ボク‥は‥‥グリムです。普通の子です」

 と自己紹介すると、子供たちはグリムを見て笑いだす。


 「グリムだね、そりゃどう見ても普通の子だよ」

 「うふふ。面白~い」

 「変わった自己紹介やなあ」

 「安心なさいな。私たちも普通の子ですわ」

 

 グリムの不安だった気持ちも、歓迎されたことで嬉しさが勝って感動に変わっていく。


 ここがボクの居場所なんだ‥‥


 ここで長く楽しく住む事が出来たら嬉しいな‥‥



 そんな様子を見ていたイリスは、この子たちがグリムの初めての友達、いや、兄弟になることに心から良かった、と嬉し涙をこぼす。


 イリスも大人たちが歓迎する。

 一人一人紹介を受ける中で、フェリーナが紹介を兼ねてお願いをしてきた。


 「イリスさん、料理作れますか?」


 「え、ええ。家庭料理になりますけど‥‥」


 「じゃあ、私と料理担当になってくれませんか?ここも結構人が増えてきて、私一人だと大変になってきて‥‥」


 「私で良ければ」


 と、イリスは料理担当ということになった。


 イリスが料理担当になったことで改善された事がある。


 子供たちの好き嫌いがほとんど無くなったのである。

 フェリーナも頑張って食べてもらうように試行錯誤していたが、苦手な野菜は残されていたのだが、イリスの作る料理は子供の苦手な苦味が全く感じなかった。


 ハナもジェニファーも人参が苦手だったが、

 「あれ?甘くておいしい」

 「おいしいですわね‥‥」

 と、驚きながら食べるようになった。


 アリスやロイスはピーマンが苦手だったが、

 「苦くない‥‥おいしいよ」

 「あれ、めっちゃうまいやん」

 と好評なのだ。


 フェリーナはイリスに秘訣を教わる。

 「苦手な野菜は加熱すると苦味が和らぐんです。さらに子供の好きな食材と一緒に食べてもらえるように作ると野菜のクセもさらに減るんです」


 お礼にフェリーナも食堂で培ったレシピを伝授した。


 グリムに続いてイリスも自分の居場所はここなんだと、大きな安心感に包まれる。


 二人はすぐにみんなと馴染み、新しい家族として生活していくのだった。





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