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026 悪魔の子グリム

 五年前。


 ある夫婦に待望の子供が産まれた。


 元気な男の子で、グリムと名付けられた。


 夫婦は結婚してから十年も子宝に恵まれず、ようやく授かった子供なので、大層可愛がっていたが、母親が間もなく謎の奇病にかかり、亡くなってしまった。


 さらに半年後には父親が川沿いで魔物に襲われて亡くなってしまう。


 遺されたグリムは親戚が引き取ることになったが、義母が食事中に喉を詰まらせ帰らぬ人となった。


 程なくして、義父も悪性の腫瘍が元で亡くなってしまった。


 これだけ身内が連続で亡くなると、他の親戚たちにあらぬ噂が広がってしまう。


 『グリムは悪魔の子』


 だが、まだ一才の子供である。そんな子供に親を殺す力も意志も無いだろうと、別の親戚夫婦がグリムを引き取った。


 半年経ち、グリムが二才を迎えた頃。

 

 義父が町を歩いていた時、ふと建築現場の横を通る。


 その時、角材を吊り上げていた綱が切れてしまった!


 落ちてきた角材が下を歩いていた義父に直撃してしまい、義父は即死した。


 グリムを擁護していた義母は、夫を亡くしたことにより、やはり悪魔の子ではないかと疑うようになってしまった。


 義母が調理場でナイフを手にする。


 身内が五人死んだ‥‥


 全ての原因はグリムにある‥‥


 あの子は悪魔の子だ‥‥


 今あの子を殺さねば、いずれ私も殺され、また他の身内も、関わる者全ての人を殺されてしまうかもしれない‥‥


 義母が緊張しながら階段を上がる。


 二階の寝室に寝かせてある悪魔の子がいる。


 一段上がる度にギイと軋む音がする。


 しかし、あと一段で二階に差し掛かるところで足を踏み外してしまい階下まで転落した。


 その時手に持っていたナイフが心臓を差しており、義母は亡くなった。


 これでまたグリムは一人ぼっちになり、誰が引き取るのか問題になる。


 親戚はまだいたが、「可哀想だが勘弁して欲しい」と遂に親戚一同許否することになる。


 仕方ない処置だが、公的な機関でグリムを預かろうということになる。


 そこは町役場の出張所のような施設で、八名の職員が常勤していた。


 通常業務は実は忙しくないので、昼間と夜でグリムの担当を決めることも容易だった。


 だが、やはりここでも被害者が出てしまう。


 職員の中でも人一倍健康そうな男が、日課のジョギング中に心臓発作を起こして亡くなってしまった。


 さらに、グリムが三才を過ぎた頃、職員の女が通り魔に差されて死亡。


 また、ある者は馬車に轢かれて死亡した。


 職員たちも、さすがに噂通りの悪魔ぶりにグリムを疑いそうになったが、両親や親戚を始め、たまたまグリムが身内として関わっていただけで、みんな不注意や事故、病気による死亡なので、グリムのせいにするのはおかしいとして、継続して引き取った。


 たしかに毎日誰かが死んでいるわけではない。


 グリム自身も子供ながらに周りでお世話になっている人が死んでいくことで普通ではない何かを感じるようになっていた。


 時は過ぎて四才となる。


 グリムはずっと笑顔になれなかった。


 それでも、グリムのせいではない、と懸命に諭し続ける職員がいた。


 イリスという女性職員だった。


 周りが疑心暗鬼の中でも、イリスはグリムを不安にさせないように優しく守る唯一の人物だ。


 そしてまた一人、職員が通勤中に具合が悪くなり、周りに誰もいなかったこともあり、発見された時には死んでいたという。


 職員たちは限界を感じていた。


 「出て行ってくれ‥‥」

 一人が呟いた。


 「もう嫌だ!やはりこの子は!‥‥」

 別の職員が言ってはならない言葉を発する前に、イリスが「分かりました!」と、グリムと共に町を出た。


 



 グリムは、周りの人がまた一人死に、感情が分からなくなっていた。


 自分は直接その人の死に関わっていないのに、周りの人がどんどん死んでいく‥‥


 ボクがいるからなのかな‥‥


 他の人もそう思ってる人もいるみたいだ‥‥


 

 「‥‥ム‥‥リム‥‥」


 何か聴こえる?‥‥


 「グリム!グリム!しっかりして!」


 いつの間にかグリムは気を失っていたらしい。


 密かに職員が話すのを聞いたことがあった。


 『ご両親もそうだけど、その後あの子を預かった親戚たちは一人も生き残っていないんですって。たしかにあの子が殺したわけではないけど、周りが次々に亡くなるのは‥‥』


 『引き取った私たち、大丈夫かなあ‥‥早速犠牲者が‥‥』


 『犠牲者って‥‥心臓発作で亡くなったのよ‥‥とはいえ、やっぱり気持ち悪いわねぇ‥‥』


 それからは、周りの自分を見る目が、悪魔を見るかのような冷たい視線を感じるようになる。


 ボクは悪魔の子なのかな‥‥


 だから周りの人が死んでいくんだ‥‥


 と思っていると、イリスがグリムを強く抱き締めた。


 「グリム、大丈夫。私が守るわ。全て偶然だったの。大丈夫、大丈夫なのよ‥‥」

 グリムは、ハッとする。


 何故周りの人たちが死んでいくのかは分からない。


 でも、そんな自分の味方になってくれる人がいるんだ、と。


 グリムは感情の無い表情で涙をこぼす。


 今のグリムにはイリスの温かさだけが救いとなっていたのだった。






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