021 人攫い集団の噂
預かり所がスタートしてから夕飯が出るので、暫く行くことがなかった酒場に、三人の戦士が久しぶりに行ってみた。
ビスマルクの提案で、何か情報収集出来るものがあるかもしれないと。
人の噂を盗み聞きするのが目的なので、あまり気分のいいものではない。
しかし、世間の興味はこういう場所で漏れるものでもある。
「ま、徒労に終わるかも知れんがな」
ビスマルクはたまには気長にやらないか、と二人を連れてきたのである。
中に入ってテーブルについてみるが、基本的にガヤガヤしており、会話は聞き取りにくい。
ビスマルクはそんな中でも、特定の人物にチャンネルを合わせて聞き取る能力がある。
ジャンもウィリアムも、「ダメだ。ちっとも聞き取れねえ」と、食事に集中している。
そんな中、
『‥‥カムセア家って知ってるか。‥‥いや噂だがな。最近、人攫いをして、奴隷にしてるようなんだよ‥‥そりゃ違法だよぉ、でもな、あそこの長男はいい話し聞かねえから‥‥』
と聴こえてきた。
「ビスマルク、食べねえならもらうぞ」
とウィリアムが言うとビスマルクは、手で食え食えとジェスチャーする。
『‥‥お宅のお子さんも気をつけた方がいい。‥‥一人っぽい子供を狙ってる人攫い集団がいるらしいからな‥‥』
話していた町人風の男は、その後少し飲んでから直ぐに帰ってしまった。
「ビスマルク」
ジャンが呼び掛けると、ビスマルクが今町人風の男が話していた事を話した。
「それにしても、これは大事件だぞ‥‥カムセア家って上流貴族だぜ。下手に動けばこっちが罪に問われるぞ」
と、ウィリアムが言う。
「そうだな。だが、奴隷は違法だ。酷い扱いされていれば助けないとな。それに、人攫い集団は貴族ではないだろうから止められる」
ビスマルクがそう言うと、
「人攫いってどこに現れるんだ」
とジャンが言う。
「う~ん‥‥」
そもそもそれが分かるにこしたことはない。
「‥‥なあ、警備団は知ってるのかな」
ジャンが言うと
「行ってみないか。出来れば協力して解放まで持ち込めたい」
ビスマルクが言う。
「決まりだな」
ウィリアムがそう言うと三人は警備団へ向かった。
警備団とは、基本的に町長直轄の部隊で、犯罪抑止のために町を巡回、犯罪をした者の逮捕、喧嘩の仲裁、遺失物の預かり等を主に行っている。
この警備団が無い町もあるが、当然治安が悪くなる。無い町には代わりに保安官がいるが、一人か二人しかいない。
サイハテブルグはわりと大きな町になる。上流貴族も五家あり、そのうちの一つがカムセア家である。
さらに上流貴族にも格付けがあり、星1から星4に分けられ、星4が最上位クラスとなる。
三人の戦士が警備団に相談がある、と中にはいる。一応、カムセア家が息のかかってそうな西側を避け、東側にある警備団を選んだ。
ここは上流貴族であるガブリアス家のエリアの警備団だ。団員に引率されて団長室に入る。
「団長お連れしました!」
団員はそう伝えると、三人の戦士に挨拶して退室した。
「フランチェスコ・ガブリアスだ。どうぞ、掛けたまえ。本日はどのような件で?」
団長のフランチェスコは三十路半ばの紳士で、長い黒髪を後ろで束ねている。
「まだ、噂らしいのですがカムセア家を中心にした人を拐い、奴隷にするという話を耳にしまして‥‥」
ビスマルクが切り出す。
「‥‥ふむ。カムセア家の長男が狂人でな。何か闇で動いてそうな気配はあったのだが‥‥そういう事か」
と、フランチェスコは眉をひそめる。
「本当なら違法だ。カムセア家は罰せられるだろう。だが、今のところは噂だけで証拠はない。とにかく巡回の隊を増やそう。君たちも怪しい動きや拉致する現場を目撃したら教えてもらえないか」
「分かりました!そのときは口笛で知らせます」
ジャンが言う。
こうして、人攫い警戒目的の巡回警備が始まった。
フランチェスコは団員を10人、いつもの警備服ではなく、普段着で捜索させた。
サイハテブルグには、無数の路地がある。
万一敵が中に入ってきても初見では迷子になる造りだ。
こういった人気のない路地こそ、犯罪の場所になり得る。
ジャンたちもそれぞれ分かれて怪しい場所へ陣取る。
私服警備団も散らばり、巡回している。
ウィリアムが、ある子供を見つける。
一人で人気のない路地に入ってきた。
そこへ、後を追うように冒険者風の男がやってきた!
その後をウィリアムが追う!
子供に男が追いつく!
ウィリアムは走り出そうとした!
すると、子供から男に気づいて手を繋いだ!
「ふぅ~、親子だったか‥‥」
だが、直後に遠くで口笛が聞こえた!




