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020 赤ちゃんの気持ち

 マリーが来てから、赤ちゃん担当はマリー、バルトが世話するようにしようとしたが、シャオランも何故か赤ちゃんに挑戦していた。


 「シャオラン大丈夫か。かなり疲れているようだが‥‥」

 バルトも心配していた。


 「なんか、悔しいんだよ‥‥この子らを手放した親と一緒にされるみたいでさ‥‥」

 シャオランがそう言うとマリーが話す。


 「赤ちゃんの気持ちになってみて。あなたが一生懸命なのは伝わる。でもね、赤ちゃんはあなたの疲れた顔や悩んでる顔を見たら不安にならない?」

 

 言われてシャオランはハッとする。


 「本当のお母さんだって、疲れたらおばあちゃんに任せたり、近所のママ友に相談したりするんだから、シャオランも疲れたら休んでいいのよ」

 そう言ってマリーは微笑んだ。


 ジェニファーもシャオランに話しかける。

 「シャオラン、私たちのお相手も大丈夫ですわ。疲れが取れるまでゆっくり休んでくださいな」

 

 ハナもロイスもそうした方がいいと促した。


 ドマも犬の姿で育児スペースで休んでいる。


 シャオランは自分の部屋に行って長めの睡眠をとることにした。


 



 何時間後だろうか。

 

 シャオランは目が覚めて育児スペースに入ろうとすると、マリーがみんなの前で話をしていた。


 「ねえ、ハナちゃん。怖いものってある?」


 「う~ん、魔物とか‥‥一人になると怖い‥‥かな」


 「ハナちゃん四才だったかしら。それでも怖いものがある。赤ちゃんはね、もっと怖がりなの。考えてみて、お母さんのお腹から外に出たら初めて見るものばっかりなのよ。そりゃビックリしちゃうわよねえ」

 マリーはハナにも分かるように赤ちゃんの気持ちを説明している。


 「だからね、お世話する時は笑顔が大切なの。それと愛情。赤ちゃんがいくら泣いてても、産まれてくれて幸せ、私の所に来てくれてありがとうって心から思うの。赤ちゃんにはちゃんと伝わるのよ」


 ハナもロイスもジェニファーも目を輝かせてマリーの話を聞いている。


 「赤ちゃんをリラックスさせるにはね、お母さんのお腹と似た環境がいいの。妊婦さんのぽっこりしたお腹の中に赤ちゃんがいるでしょお。中はぬるま湯のような温かさ。お腹の中だから外より静かな世界。でも、お母さんの心臓の音が聴こえるの。だから、そんなイメージで包み込むように抱いて、背中をポンポンって優しく叩いてあげるの」


 シャオランは扉の向こうで反省していた。


 あたしは愛情を二の次にして赤ちゃんに接していたんだ‥‥


 分からない分からないとイライラした顔を赤ちゃんに見せていた‥‥


 そんなやつに抱かれていても怖くて不安だよな‥‥


 ごめんな‥‥


 あたしは何も分かってなかった‥‥


 シャオランが頬を叩いて気合いを入れる!


 こうなったら相手がドラゴンでもベヒーモスでも愛してやるぜ!‥‥


 晴れやかな表情でシャオランが育児スペースに入る。

 「結構寝てスッキリしたぜ!どこからでも!‥‥」


 と言いかけると、ハナやジェニファーが、し~っと静かにするように注意された。


 シャオランが寝ている赤ちゃんを覗き込む。


 赤ちゃんはすやすや眠っている。


 上等じゃねえか‥‥


 こんな手強いとは予想外だったけど‥‥


 接し方が分かればこっちのもんだ‥‥


 ミゲル、エレナ、ラウラ‥‥


 愛して愛して愛しまくってやるからな!‥‥


 


 その後のシャオランの対応はバルトも驚くものであった。


 赤ちゃんが泣いても、持ち前の観察力で対処していく。


 「なんだ、遊んで欲しいんだろ?こうか、こうして欲しいのか」

 たちまちエレナは泣き顔から笑顔に変わる。


 「お腹空いたんだな。ミルク、用意してもらってるからちょっと待ってろよ」

 ミゲルは哺乳瓶を与えると直ぐに泣き止み、ミルクをごくごく飲み始めた。


 「ラウラはオムツだな。今、新しいのに換えてやるからな。‥‥なんだ、まだ泣くのかよ‥‥そうか、寂しいんだな」

 シャオランがラウラを包み込むように抱きながら優しく背中をポンポンする。


 マリーもこれには目を見張る。

 「見直したわ、シャオラン。あなた、赤ちゃんをあやす才能があるわね。何より、笑顔で接してる。大事な事よ」


 シャオランはラウラを寝かしつけてこう言った。

 「いや、やり方を教えてくれたのはマリーだ。あんたがいなきゃ今でも悩んでいたと思うぜ。ありがとうな」

 

 「どういたしまして。バルトはシャオランに追い抜かれちゃったわね。でもいいの。バルトはクエストのがいいかもね。赤ちゃんにしたら顔が怖いもの」

 とマリーが言った。


 確かに、五十路のベテラン騎士という肩書きからして可愛くない。


 岩のような顔つきに髭を蓄えている姿は、やはり魔物に向けられるべきだろう。


 と、思っているとハナがそんな心を読んだのか、

 「バルトの優しさはわたし知ってるからね」

 と言った。


 バルトはしゃがみこんでハナの頭を撫でる。

 「そうか。その言葉は一番嬉しいよ」

 と微笑むのだった。






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