002 寝床探し
酒場に入り、バルトは適当に食事を頼んだ。
女性はエルフで名前はフェリーナと言った。
フェリーナは冒険者ではないらしい。
それに見た目が二十歳くらいなだけで実年齢は285歳のようだ。
「食堂で修行していたんですけど、なかなか調理場を任せてもらえなくて掃除や皿洗いをやらされてまして‥‥」
と、フェリーナは手当たり次第に食べながら話した。
バルトはハナの手前もあり、食べるのと話すのを別にするように頼んだ。
「あ、そうですね。私とした事が‥‥調理には自信があるんです。でも、その食堂では私は必要がないらしく勝手に辞めたのですが、他ではどこも雇ってもらえなくて‥‥そのうち、お腹も空いてきて動けなかったのです」
言い終わるとまた食事に集中し始めた。
ハナはバルトに懐いてきたのか、バルトの腕をちょんちょんすると口を開ける。
バルトは大きな手でハナの小さなスプーンを使い、食事をハナの口に入れてあげる。
「美味しいか」
バルトが聞くとハナは両手でほっぺを支えながら目を細めて笑顔になる。
バルトは顔には出さないが、可愛い笑顔にやられていた。
フェリーナはその様子を微笑ましく見ている。
「随分歳が離れたお子さんみたいですけど、奥さんはいないんですか」
「妻はいない。この娘も私の娘ではないのだ」
「おっと、そうでしたか‥‥ごめんなさい」
「この娘の両親は旅の途中亡くしたそうだ。一人で山にいた所を私が保護したというわけだ」
「山に一人で!そうですね。保護して正解ですね。ハナちゃん、可愛いのに頑張ったのね。私もお世話したいなあ」
ハナはフェリーナにも笑顔を振り撒いている。
食事を終えた三人は、寝床を探さなければならない。
「バルトさん、取り敢えずハナちゃんだけでも寝かせてあげないと可哀想ですよ。冒険者ギルドで相談してみませんか」
「ふむ‥‥」
バルトはハナを抱き上げるとフェリーナと共に冒険者ギルドに向かった。
ギルドに入り、バルトはギルドマスターに相談したいと受付に持ちかけた。
程なくして長身のエルフが現れた。白い髪が腰まで伸びていて美しい。
美麗なその男は名をオバルと言った。
バルトは仔細を話した。
「なるほど‥‥お話しはよく分かりました。実は、この土地は強い魔物が出現することもあって、冒険者である親が亡くなり、子供だけが残される事が起こり得るのです。そんな子供たちを育てる施設が必要だろうとは思っていました」
オバルは続けて話す。
「多くの場合、他人の面倒をみる力まではないため、父親を亡くした家族は収入がなくなり、助けを得られず残された家族も死んでしまうケースが多かったのです」
オバルがさらに話す。
「このギルドの奥に使われていない部屋があります。ただ、長らく使用していないためリフォームしなければなりません」
バルトはそこで持っている金貨をテーブルに置いた。
「金はある。これで部屋を戴きたい」
フェリーナがそれを見て、
「調理は任せて欲しい!だからキッチンも作ろう!」
オバルは、ならばと知り合いの大工に連絡をとり、リフォームに掛かる。
それまでは馬小屋の隣の小屋に藁を束にしている場所を寝床とすることになった。
三人はオバルに礼をして藁小屋を借りた。
バルトはフェリーナとハナを前に話す。
「これも何かの縁なのだろう。預かり所のリフォームに金貨を使い、手持ちが少なくなったのでギルドのクエストをやり、稼ぐことにするがその間フェリーナ、ハナの事を頼む」
「はい、任せて下さい!」
「私たちはこれから家族だ。さらに受け入れる子供も同じように愛していくつもりだ。宜しく頼む」
「はい!」
フェリーナが答えるとハナも元気よく、はい!と答えた。
フェリーナがハナのほっぺをつつきながら
「ふふふ、この子は意味が分かってるのかな」
言われたハナは
「分かってるもん!」
と可愛らしく怒っている。
バルトは笑いながら、長らく独り身だった自分だが、この家族を大事にしようと、大きめの藁のベッドを作りながら思うのであった。