019 救世主マリー
三人の赤ちゃんが来てから一週間が経った頃。
シャオランとドマはかなりの睡眠不足でフラフラになっていた。
いつ泣き出すか分からない恐怖と、何故泣いているのか分からない謎が二人を苦しめていた。
バルトも二人と同じく赤ちゃんの相手をしているのだが、冒険者の経験から寝ないことは苦痛ではなく普通の事だった。
また、バルトなりに何故泣いているのか理解しようとしていたため、その謎を楽しんでいるところがある。
それこそ、ドラゴン討伐のようにどうやってこの強敵を攻略しようかと、ワクワクする気持ちに似ている。
「バルトさん、すげえな‥‥赤ちゃんギャン泣きなのに全然慌てる感じがねえ‥‥寧ろ楽しんでるし‥‥」
ジャンたちは、さすが英雄だと感心している。
「もう~わっかんないって!オムツじゃないし、ミルクはあげたばっかりだし、何で泣いてるんだよ~」
シャオランは限界に近い。
ドマも、獣化して犬として接したり努力はしているのだが、赤ちゃんのギャン泣きが続いて疲労が溜まっている。
「ホントに赤ちゃんを攻略出来たらドラゴンに勝てそうな気がする‥‥」
周りでは子供たちも、あまりに泣き続ける赤ちゃんを心配しながらあやそうとしている。
ジャンたちは、何も出来ないのでクエストに出かけてしまった。というより逃げている。
そこへ、救世主が現れる!
育児スペースに入って来たのは茶髪ボブで中肉中背、冒険者ではなさそうな男がやってきた。
「あらあ、早速赤ちゃんがお仕事中じゃなぁい。アタシに任せて」
男はシャオランから赤ちゃんを受け取ると、包み込むように抱きながら優しく赤ちゃんの背中をリズムよく叩いてあげた。
みるみる赤ちゃんの目がとろ~んとしてくるのが分かる。
間もなく眠りにつくと、男は赤ちゃん用のベッドにそっと寝かせた。
終わるとドマから受け取り、たちまちのうちに赤ちゃんを寝かせてしまった。
最後にバルトから赤ちゃんを受け取ると、オムツを新しくしてから優しく抱きながらゆりかごのように揺らしてあげるとすぐに大人しくなり、眠りについた。
「はい、おしまい。アタシが誰かって?アタシはアレックスよ。周りの人はマルガリータって呼ぶわ」
「アレックスなのに何でマルガリータなんだよ‥‥」
シャオランが不思議がる。
「長いからマリーでいいわ。よろしくね」
「つまり、ここで保育士をしてくれるという事でいいのかな」
バルトが聞いた。
「そうなの。アタシ、赤ちゃん得意だから任せて」
「これが噂のオカマってやつか‥‥子供に見せていいのかな‥‥」
ドマがそう呟くとマリーが反応する。
「オカマの何が悪いっての?意地悪?差別?あらやだ」
「あ、いや、失礼しました‥‥それにしてもどうして赤ちゃんをあっさり寝かしつけられるんですか」
と、ドマが聞いた。
「いい質問ね。アタシくらいになるとね」
マリーが謎の間を作る。
「出来ちゃうの」
周りの顔が、答えになってね~と固まる。
「なあ、マリー。赤ちゃんって何で泣くんだ?」
シャオランが聞いた。
マリーは今度は真面目に話し出す。
「赤ちゃんはね、それがお仕事なの。よくそう聞くでしょお。だってまだお話し出来ないんだもの。一生懸命泣いて、周りに伝えるしか出来ないの」
言われてみれば赤ちゃんは会話が出来ない。だから、泣く。当たり前のことなのだ‥‥
「でも、ミルクを与えたばかりとか、オムツ以外だと分かりにくいんだけど、赤ちゃんは何を伝えたいんだろ」
ドマが聞いた。
「赤ちゃんはね、寂しくて泣いたり、退屈だ~遊びたい~って泣いたりもするのよ。あとは眠たい~もあるわね。それを見分けるには赤ちゃんをよく見てあげて。目が少し赤くなってない?何か匂わない?ミルクっていつあげたっけ?とかね」
「なるほど、泣くなりの手掛かりがあるという事なのだな。ありがとうアレックス」
と、バルトが言うと
「あん、マリーって呼んで」
と訂正された。




