016 生きていい
黒犬族は成長すると達磨のような体型になる。
ぽっちゃりとした見た目だが、それが獣化する事で武器となる。
ドマはまた別の町に入り、新たな拠点とする。相変わらずここでも人間扱いされないが、クエストは失敗したことがなく、順調にランクを昇格させてゆく。
ドマがCランクとなり、強敵を倒すクエストに出会う。
時折、山から出てきて畑を襲うダークベアを討伐するというもの。
出来るだけ黒犬族と分からぬように、麦わら帽子を被り、鼻から首をマフラーで隠していた。
幾つも町を経ながら身についた服装だ。
町の中ではこれで気づかれない場合が多いので無駄な差別は避けられる。
それでもじっくり見られると黒犬族と分かるので、目立たないように行動していた。
ドマが町の外に出る。
畑には色んな野菜が実っており、これをダークベアが収穫前に食べてしまうらしい。
畑で闘ったらダメだ‥‥
ここから山は‥‥西か‥‥
麓なら誰にも迷惑にならずに闘えそうだ‥‥
ドマは山の麓に向かう。
麓の手前で空腹になったら出てくるであろうダークベアを待つ。
焚き火をしながらドマは考える。
自分が旅に出てしまい、両親はどうしてるだろう‥‥
ボクが居なくて寂しく思ってるのだろうか‥‥
差別に耐えきれずに食べ物も喉が通らなくなってないだろうか‥‥
どうしても残してきた両親を心配してしまうな‥‥
心配するくらいなら何故旅に出た‥‥
現状から逃げるため‥‥
違う!‥‥
黒犬族の運命を変えたくて旅に出たんだ‥‥
麓の方に動きが見える!
間違いない‥‥
ダークベアだ!‥‥
ダークベアはドマより格上の相手だ!
先に見つけていたドマは身を隠す!
悠然と畑を目指すダークベアだが、空腹に苛立っている様子だ!
下手に正面でぶつかればドマは容赦なく潰されるだろう。
そこへ!
ダークベアの後頭部に衝撃が走る!
グラっとよろめくダークベアの首を腹を脚を、獣化したドマの間髪容れない怒涛の攻撃が放たれる!
虚をつけば、格上でも攻略出来る!
ドマは一方的な攻撃の中、硬質な長い爪を伸ばす!
トドメとばかりに硬い爪をダークベアの頭部から斜めに振り下ろした!
ダークベアに付けられた爪痕は、頭部から左目を抉り、顔面を斜めに裂いた赤い三本の傷となった!
ハアハア‥‥
これで五分五分に持ち込めたかな‥‥
一撃に‥‥
気をつけないと‥‥
ドマは気づかれないようにジリジリ距離をとる。
そしてぽっちゃり体型のドマが前転しながら黒い球体となり、物凄い勢いで回転を始める!
ダークベアにぶつけた初撃の技が明らかになる!
「デスボーリング!」
目で追うには速すぎる攻撃に、ダークベアも混乱する!
ドマはダークベアを高速で追い越すと、死角から爪を伸ばし、球体のまま体当たりする!
ダークベアの胸板からおびただしい鮮血が溢れ出す!
球体を解いたドマも勝ちを意識した!
片膝をついて苦しむダークベアに接近する!
「終わりだ!ドマクロー!」
ドマの硬い爪がダークベアの右目を狙う!
瞬間!
ダークベアが素早く立ち上がり、クローを躱すように反転しながら破壊力抜群の裏拳をドマに放つ!
横に何度も回転しながらドマが地面に叩きつけられた!
脳震盪だろうか‥‥
立ち上がれない‥‥
ダークベアが血を流しながら近づいてくる‥‥
ボクは死ぬのか‥‥
デスボーリングを使い、かなり体力も減っている!‥‥
だけど‥‥
ボクだって負けられないんだ!‥‥
黒犬族は弱くない!‥‥
ドマが気力を振り絞り立ち上がる!
ボクが証明するんだ!‥‥
ドマが赤いオーラを纏い攻撃力を上げる!
ダークベアが吠えながら四つ足で突進してくる!
ドマが右拳を引きながら爪を熱くする!
衝突直前!ダークベアが立ち上がり、振り上げた爪を全力で振り下ろした!
ドマは低い姿勢から素早くダークベアの懐に潜り灼熱の爪で腹を切り裂いた!
ダークベアはその場に倒れ、二度と起き上がることはなかった。
ドマも全てを使い果たし、地面に大の字になる。
自分より強い相手に勝てた‥‥
まだ信じられない‥‥
奇襲をしなければ負けていた‥‥
パワーも圧倒的に魔物が上だった‥‥
ボクは生きていいんだ‥‥
少し‥‥
堂々と生きてみようかな‥‥
ドマは死闘の果てに僅かな自信を持つようになった。




