015 黒犬族ドマ
サイハテブルグという町は、大陸のあらゆる町の中でも歴史の浅い町だという。
他と比べて強力な魔物が多く棲んでいたため、そんな場所を人間が安心して暮らせないからだ。
だが、そのうちあらゆる町から強力な魔物をたおしてみたい、と冒険者を中心に集まるようになり、小さな村を作って拠点としたのが始まりだという。
今ではそこに代々住んでいる者もいたり、次々と新参者が住み着くといった他の町では見られない文化をもつ。
「来るものは拒まず、負けた者は去れ」
この町の初期に流行した言葉だ。
いつしか厳しさは柔らかくなり、来るものは拒まずだけが残されたような町となる。
それは、ある程度魔物の強さが分かり、Cクラスならなんとか生きていける環境だと伝わってきたからだ。
だが、実際にはBクラスでも勝てない魔物も多くいるため、楽観的な編成では簡単に全滅する。
そんなサイハテブルグから遥か離れた町、ラサド。この町に忌み嫌われた一族がいた。
黒犬族という少数民族だ。
町の中ではあらゆる種族から差別されてきた。外を歩けば冷ややかな視線を向けられ、肉や野菜を買おうとすれば、売り物ではなく、傷ものを買わされる始末。
彼らは首から下は人間と同じだが、顔が真っ黒い毛で覆われた犬である。
きっかけと言われる事件がある。
数十年前。
人間、ドワーフ、虎人族、など多民族パーティの中に黒犬族がいた。
彼らは勇者パーティで魔王討伐の旅に出るほどの実力を持っていた。
伝説の装備を集め、いよいよ魔王城に乗り込んだ勇者パーティだったが、魔王との対戦の時に黒犬族が勇者を裏切り、伝説の剣を奪う。
そのまま魔王の配下となり、勇者パーティは全滅したという。
但し、この話は作り話で根拠はない。
だが、これが根強く広まってしまい、黒犬族は世間から疎まれる要因となり、現在まで続いているという。
そのラサドに住む黒犬族の息子ドマは16歳の今まで、親と同じように差別されて苦しんでいた。
父親も母親もそんな運命をやはり苦しんでいたが、今では黒犬族はそうされて当たり前と、諦める考えとなっていた。
だが、多感なドマはこんな環境から抜け出したくて仕方ない。
そんなある日、ドマは町から離れて冒険者になることを親に告げた。
「ドマ、我々はどこに行っても差別されるよ。ここなら親子で耐えられる。外に出ればお前は一人で差別と戦うんだぞ」
「それでも構わない。冒険者としての仕事をこなすだけだ」
ドマは寧ろ一人の方が対処出来ると考えており、父親や母親が苦しむ姿を見るのも辛かったのだ。
「ドマが心配なのよ。お前は優しいから、差別をされながらも自分を犠牲にしないかと‥‥」
「ボクは、黒犬族が忌み嫌われる運命を変えたい。せめて悪いやつではないと思ってもらいたいんだ。でも、そうするには少しずつでも信用されなければいけない」
両親は、ドマの人生だから好きにやらせてみようと、路銀を渡した。
「どこか‥‥あなたを受け入れてもらえる町があることを祈るわ‥‥」
ドマは旅に出た。
だが、差別の無い環境は簡単には訪れない。
行く町行く町で、冷ややかな視線や陰口を叩かれてしまう。
それでもドマは持ち前の野生で切り抜ける。
彼の職業はバーバリアン。
獣化する事で、能力を上昇させ、俊敏さと牙と爪が主な攻撃となる。
なのでクエストは寧ろ人間より数をこなしてくる。
しかしそれも周りの妬みを引き起こす原因となり、住みづらくなっていく。




