011 正しい判断
ウィリアムは途中で分かれて、知り合いの医者を呼びに向かう!
ロイス自身も動けないハンガーノック状態になっている!
ジャンがロイスを背負って案内してもらいながら家を目指す!
「ロイス、これを舐めておけ」と、飴を渡した。ハンガーノックは強い疲労感や倦怠感を起こして動けなくなるのだが、糖分が極端に低い状態になっているため、いわゆるガス欠である。
そのため、すぐには効かないが飴を舐める事で多少回復する。
走りながら段々見るからに貧しい家が増えていく。
壊れた屋根や壁を雑に補修したような家が並んでゆく。
その中にロイスの家がある。
中に入ると、ガランとした狭い部屋に古びたベッドに寝ているロイスの母らしき女性がいた。
ロイスが急いで母に駆け寄る!
ビスマルクは早速一口サイズに果物を切り分けて、ロイスとその母に食べるようすすめる。
「ほら、母さん、果物だよ!この人たちが買ってくれたんだ!」
だが、母は食べる力もないように、口に運んでも下に落としてしまう!
「もっと潰さないとダメだな‥‥」
ビスマルクは果物を絞り、ジュースとして少しずつ飲ませてみる!
ロイスの母は青ざめた表情だが、何とか喉を動かして飲もうとしている!
「母さん!今、医者も呼んでもらってるんだ!頑張るんだ!母さん!」
そこへ、ウィリアムと共に医者が入ってきた!
急いで応診するが、医者は険しい表情のまま首を横に振る。
医者はロイスに向き直り真剣に話し始める。
「まだ少年の君にはとても辛い話だが‥‥私には手の施しようが無い‥‥食事も出来ていないため病気と戦う体力が全く無いんだ‥‥」
ロイスは医者を絶望した目で放心している。
「恐らく‥‥君の母さんは間もなく天に召されるだろう‥‥最後に君の顔を母さんに見せてあげなさい‥‥」
少年に残酷な審判が下る。
ロイスは精気なく涙を流しながら母の顔をのぞきこむ。
すると母が掠れた声で反応した。
「ロイス‥‥なのかい‥‥お顔を‥‥見せて‥‥」
「母さん!目の前にいるよ!」
ジャンがハッとして、光魔法を唱えた。
「サークルライト!」
通常は暗いダンジョンで灯りを灯す魔法だ。
今は夜になっていて、ランタンだけでは暗すぎたのだ。
部屋がサークルライトで明るくなる。
「ロイス‥‥わたしの愛しいロイス‥‥おまえをのこしてしまう‥‥わたしをゆるしてね‥‥」
ロイスも母との別れを覚悟したかのように涙を拭う。
「ボクは大丈夫さ!もう8歳なんだよ!だから心配しないで‥‥」
「‥‥そうね‥‥ロイスは‥‥つよいこ‥‥だもん‥‥ね‥‥」
母が微笑みながら目を閉じる。
医者が脈をとるが、首を横に振る。
「母さん!母さん!母さん!うわあぁぁぁああ!」
時間はもう夜遅くなっている。
「落ち着いたか」
ジャンがロイスに声を掛けた。
ロイスは力なく頷く。
「ロイス‥‥これから独りでどうやって生きていこう‥‥って考えてねえか」
とウィリアムが言う。
ロイスは、何で分かったの?と言いたげな顔を見せた。
「お前の悪いところは、一人で全てをやろうとしたとこだと思うぞ」
とビスマルクが言う。
「でも‥‥父さんは既にいないし、母さんが病気だったんだ‥‥ボクが動くしかないじゃないか‥‥」
「だからといって他人の物を盗むのは良くない」
ジャンも言う。
「でも、ボクは年齢が若いから冒険者になれない。仕事の手伝いも出来ないか考えたけど思いつかなかったんだ‥‥どうすれば‥‥どうすれば良かったんだよ!」
「大人に頼れば良かったんだよ。少なくともオレと出会った時にオレを頼れば良かったんだ」
ジャンがロイスの肩に手を乗せて言った。
「それでも母さんは助けられなかったかも知れない。でも、振り返ってみるんだ。大人と相談出来るチャンスはあったんじゃないかな」
ウィリアムが温かいミルクをロイスに渡して言った。
確かに、母が一人で働いていた時、母が病気になってしまった時、空腹でどうしようもなかった時、近くに大人はいた‥‥
何も出来ないのにボクは一人で悩んで一人で空回りしていただけだ‥‥
「ボクが‥‥母さんを‥‥死なせてしまった‥‥」
ロイスがそう呟くと、ビスマルクがそれは違うと話し出す。
「経験が無いことに直面すると、誰でも慌てるし正常な判断が出来ないものさ。ましてやお前は子供なんだ。正しい判断が出来なくて当たり前だよ」
「そこでロイス、今お前は一人で生きていくことになった。でも、お前の目の前にはオレたちがいる!さあ、どうする!」
ジャンが笑顔で聞いた。
ロイスが遂に正しい判断をする!
「ボクを‥‥助けて下さい!」
「勿論だ!」
三人の戦士はそう言うとロイスに優しい笑顔を見せるのであった。




