010 ロイス
さらに月日が経ったある日。
町中が混雑するお昼前、短髪黄色の少年が機を伺っていた。
名はロイスという8歳の子供だ。
ロイスは幼い頃から運動神経が良く、父親のように将来冒険者となり、盗賊から忍者になるコースを夢見ていた。
その第一関門である盗賊になるために今日初めて実践する。
ロイスは町の中を十分下見をした後、青果店に目をつけた。
店主は老婆が営んでおり、万一追いかけられても逃げ切れそうだ。
ロイスは人混みに紛れながら店に近づいていく。
近づくごとに心臓の鼓動が強くなる!
屋台の店主が客と応対する時がロイスが狙うチャンスの時だ!
今だ!
ロイスが狙っているものに素早く手を伸ばす!
その時!
ロイスの伸ばした手を掴んだ者がいた!
ロイスの鼓動が早鐘を打つ!
終わった!‥‥
掴まれた手はグイグイ引っ張られる!
やがて人混みを抜けて人気のない場所で、掴んだ手を緩ませた。
「人の物を盗むのは良くないぜ。訳ありなんだろ。話なら聞くぜ」
掴んだ者はジャンだった。ロイスは動揺しながら手を振り払う。
「余計なことするなよ!」
と叫んで走り去ってしまった。
ロイスは走りながら、しくじった!失敗した!と何度も思い返す。
そして、誰もいない路地に座り込み、ちくしょう、と呟き泣くのであった。
一方、ジャンはビスマルクとウィリアムと落ち合い、少年について話していた。
「という事があってな。何か事情があると思うんだ」
「なるほど‥‥少年がそこまでやるってことは親がいないとか、何かしらで動けない状態ってとこだろうか」とウィリアムが言う。
「何にしろ盗むという味を覚えさせてはダメだ。黄色の短髪の少年か‥‥手分けして探してみよう。これはクエストよりも大事なことになるかもしれねえ」とビスマルクも言う。
「恐らく盗みは初めてだと思う。かなり緊張してて慣れた感じが全くなかった。頼むぜ、事情が分かれば預かり所という手があるんだ」ジャンは何とか犯罪に手を染めさせたくない気持ちで一杯だった。
二人もジャンの気持ちを汲み取る。
「行くぞ」
三人は方々に散ると、黄色い短髪の少年を探し始めた。
ロイスはその頃、別の区域に入り、成功出来そうな屋台を探していた。
とにかく食料が欲しい‥‥
もう二日も食べてない‥‥
腹は減ったが一瞬だ‥‥
ふと、昼前に見たような似た感じの青果店の屋台を見つけた。
やはり老婆が店主をしている。
今度こそしくじれない!‥‥
時間も夕暮れだ‥‥
絶妙な暗さがボクの手を隠してくれるはず!‥‥
再び心臓が早鐘を打つ!
目標の果物までもう少しだ‥‥
「こんなとこに居たのかデビット!みんな待ってるから行くぞ!」
ロイスは盗む手と逆の手を掴まれた!
心臓が飛び出しそうになる!
手に入れるつもりだった果物が遠ざかる!
腹が減りすぎて抵抗出来ない‥‥
引っ張られるままロイスは人気のない場所に来た。
引っ張ったのはビスマルクだった。
ビスマルクは指笛を鳴らす。
程なくしてジャンとウィリアムがやってきた。
「よお。また会えたな」
ジャンが安堵して座り込む。
「さあ逃げられないぜ。だが悪いようにはしないつもりだ。訳を話してもらおうか」
ジャンの問いかけにロイスの腹が鳴る。
「腹が減ってるのか。じゃあ食いに行こう」
ビスマルクが言うと、ロイスが待ってくれと止めた。「ボクも減ってるけど、お母さんもなんだ‥‥」
聞けば、ロイスの母は病に伏して動けないらしい。父親は既に他界しているので、なんとかしようと、盗みを思いついたという。
「二日も‥‥何も食べてないんだ‥‥」
三人は料理は出来ないので、急いで果物をいくつか買い、ロイスの家に向かった。




